2010-03-01から1ヶ月間の記事一覧

魅力

意外性に優る人の魅力はない。この男性もその最たるものかも知れない。詳しく説明すると個人情報の漏洩になるし、詳しく話さないとぴんと来ないし、ここは思案のしどころだ。まあ、その男性の善意に少しだけ甘えるしかないか。 僕は何故か彼を、おじゅっつあ…

下手な小説よりも面白かったし、下手なテレビ番組よりも面白かった。日本薬剤師会から送られてきた国民の声を読んでの感想だ。声というよりクレームばかりだったが、なかなか参考になるケースが多かった。詳細は同業者としてとても恥ずかしくて言えないよう…

動機

正直僕は言葉を失った。頭を後ろに回って見せてもらったのだが、かき傷で至るところから出血していて、巨大なフケのようなはがれた皮膚が一杯あり、そして当然髪が薄くなっていた。母親は「これでも今日は液体のステロイドを塗っているから綺麗な方なんです…

恥ずかしながら

やはりというか、当然というか、いや、これだと同じ語感になってしまうが他に当てはまる言葉がないのだ。看護師の試験で僕の知っている二人のフィリピンの女性が試験に落ちた。試験の後、「難しかった」を連発し合格しないと言っていたから彼女ら自身も覚悟…

この人にこの1行を削る権利も人生の裏付けもあるのだろうかと思いながら、それでも僕は快諾した。勿論僕がその1行に込めた思いは強いのだけれど、その1行に拘るその人自身も又、その1行を本当は投げかけて上げたい人のように思えたから。 年齢を重ねるに…

自慢

会計が終わったのに、何故か帰ろうとしない。不思議な沈黙が支配した。するとその男性は突然、いや本人としては自然な流れのように演じていたのだろうか、おもむろにポケットから携帯電話を取りだした。そして少し僕に背を向ける格好で携帯電話のパネル上で…

遺影

僕にとってその人は、何十年も全く気配のない人だった。目が覚めると丁度布団の中から額縁に納められた端正な顔をした白黒の写真が見えた。何故かしら見ようが見まいが丁度視線の先に毎朝必ず現れた。 僕は物心付かないうちから母の里に預けられることが多か…

高飛び込み

高所恐怖症の僕とはとても結びつかない話題だが、とても面白い話を聞いたので皆さんに披露する。実生活では何の役にも立たない取るに足らない話題かもしれないが、恐らく多くの人が知らないことだから敢えて書かせて頂く。 鍼の先生の縁で今日訪ねてきてくれ…

釣り糸

「私達は情報の最終ランナーですから」 なんて格好の良いコメントだろうと思わず画面を見入ったが、中年の東北弁を喋るおじさんが映し出されているだけだった。どういった状況でこの名文句が出たのかと言えば、販売部数の落ち込みで苦しむ地方の新聞屋さんの…

白衣

何時に出かけても良い程度の用事だったので家でのんびりとしていたら、数人から漢方薬が今日切れたと電話がかかってきた。各々取りに来て頂いたが、一人の男性だけは無理に長い時間を割いてお茶を飲みながら雑談した。酒を昼間から飲んでいるかと思うくらい…

東大医学部

僕には確信のようなものがあった。だから東大の合格発表の日を偶然テレビで知った時から、ちゃんとのし袋に入れて合格祝いを用意していた。別に差別をするわけではないが、受験したのが医学部だから中身は一軒の家が建つくらい入れておいた。勿論明治時代な…

ひたすら

42歳を1ヶ月前にして、妊娠をしてくれた女性がいる。病院帰りにご主人が報告に来てくれた。そんなに難しい漢方薬を作ったつもりはないけれど、良い手助けになったのだろう。奥さんのコメントは聞けなかったが、ご主人がめっぽう喜んでくれ、何度も礼を言…

失投

送られてきた医学雑誌に過敏性腸症候群の特集が載っていた。ある大学の教授が監修したものだが、読んでいてなるほどなるほどと頷くことが多かった。そのなるほどは「だから僕みたいな田舎の薬局に最終的に頼ってこられるんだ」と言う逆説的な納得なのだが。 …

一念発起

帰るまでに何回も同じ言葉を繰り返した。僕は彼の生活環境を知らなかったから意外でもあったが、心からのエールも送りたいと思った。 「家に帰っても、どうせ一人だから」繰り返された言葉だ。何となく奥さんはいないのかなと思っていたが、ご両親もいないら…

糸電話

「僕はしたことがないので良く分かりませんが、ゲームってよほど楽しいのでしょうね。世界中で恐らく何億人かの人が楽しんでいるのだから、お嬢さんがそれから抜けられなくても不思議ではありません。敵も然る者で知恵を絞って虜にしようと思っているのでし…

叡智

その正直さをもっと公にして、もうこれ以上無用な競争は止めようとでも言ってくれれば意味はあるのだが。 こんな夢見たいな事を言っているうちにも刻々と世界中で無用な製品が作られ続けている。正確ではないかもしれないが、その人の肩書きは世界で一番大き…

無頓着

もし何が僕の生き方を助けてきたかと問われれば、文句なしで優越感に対して何の価値も持たなかったことと答えるだろう。何かを多く持っているとか、何かを備えているとか、何かに恵まれているとか、他人の評価に全く無頓着なところだろう。こんなことを言う…

公衆電話

薬剤師会の代議委員会に出席する時に印鑑がいることを思い出し、家に連絡しようとしたが公衆電話が道路沿いにない。家を出てすぐに思い出したので妻に持ってきてもらおうとしたのだが、30分くらい走ってやっと1台見つけた。岡山市の東隣の僕の町から、岡…

手ぶら

彼が現代の若者の全てを代表しているようなことはあり得ないのだが、僕の薬を飲んでくれている若者にかなり共通した傾向を代弁した。 彼の話しの中で繰り返されたのは、嫌われたくないと言うフレーズだった。繰り返される言葉の頻度が、現代の若者の生きてい…

「歳をとって体力が落ちてきたからやった」なんとも身につまされるコメントだ。舞台の上で演奏し唄うことを2時間続けようとしたら恐らく大変な体力を要するのだろう。よくできるよなと、多くの壮年歌手を見ながら思っていたが、やはりかなりの重労働だった…

カーリング

僕にとって一番力を出せれるのは、一番力が抜けたときだと思うのだが、プロの選手はその辺りがさすがに違う。集中力を高めて寸分の誤差も克服するのだからさすがにプロだ。鍛錬の賜なのかもしれないが、素人は集中すればするほど手元は狂うものなのだ。そん…

資源

看板はドラッグストアとしてあったが余りにも大きな建物なので、ひょっとしたらFAX用紙も売っているのではないかと思い入ってみた。職業柄ドラッグストアには用事がないから滅多に入ったことがないので内部の光景は珍しかった。初心者の僕の結論は「FA…

山水

雪が話題にならないところの人にとっては、今日の慌てぶりは異様だろう。 こたつをして寝ていたのに、しんしんと冷える背中の違和感で目が覚めた。仕事が始まる頃カーテンを開けて理由が分かった。みぞれから雪に変わろうとしている空が町を凍らせていた。さ…

「昨日は休みだったんだろう、煎じ薬が2日切れた。切れたら一気にムカムカして何も食べれない」ソファーの縁に少しだけ腰を残し、のけぞるように腰掛ける。足を組み身体をひねっている。斜に構える癖は体も心も同じだ。 僕が右と言えば左、左と言えば右とい…

漁師

「治ったら、町中にヤマト薬局で治ったと言いふらしてよ」と言っておいてもそんなことをしてくれた人はいない。「治ったらみんなに教えます」と言う人に限って教えた人もいない。前者は僕の冗談だし、後者は皆さんの単なる意気込みだ。どちらも期待していな…

一丁上がり

テレビのニュースを見ていて、ああ、僕ならあの漢方薬を使って、あんな会話をして治すことが出来るのになあと思った。ところが、余りにも高貴な方だから接点もないし、僕らみたいな下々を取り巻きが信用するはずもないから、所詮映像の向こうとこちら側でし…

徳島

なんと、僕が毎日見て育った海を、最初は川かと思ったというのだ。なんて失礼なと気色ばむこともないのだが、なんだか身内をけなされたような気持ちに近いものがあった。こんなに僕が郷土愛を持っているなんて自分でも気がつかなかった。もっとも、その郷土…

コーヒー

もう、儲けたとしか言いようがない。昔から健康にいいことは何もしてこなかった。寧ろ逆で、健康にとって悪いことばかりしてきた。巷言われるよいことは何もせず、巷言われる悪いことはみなしてきた。それでも若い頃は何とかなっていたが、もう何ともならな…

壮年期

麓に止めてある車の屋根にも数十センチの雪が積もっている。道路は勿論辺りは完全に雪景色。その中を山深く登っていった人達が遭難したかもしれないとニュースが伝えた。よくあることではあるけれど、テレビ画面に表示された人達の年齢に驚く。60歳代後半…

勲章

柔らかくて温かい可愛い手だった。 お母さんと二人で入ってきたから、久しぶりに又漢方薬でもいるのかと思ったら、卒業式の帰りにお礼を言うためだけに寄ってくれたらしい。思い当たることはなかったので何の礼かと尋ねたら、無事卒業できたことに対する礼だ…