叡智

 その正直さをもっと公にして、もうこれ以上無用な競争は止めようとでも言ってくれれば意味はあるのだが。  こんな夢見たいな事を言っているうちにも刻々と世界中で無用な製品が作られ続けている。正確ではないかもしれないが、その人の肩書きは世界で一番大きな製薬会社の社長?か開発部長だった。彼曰く、もうすでにごく普通に遭遇する病気の薬は開発され尽くしているというのだ。残っているのは難病と言われる病気だけらしい。その話を聞いていてなるほどなあと、納得できた。 僕らみたいな小さな薬局にも、毎日のように新しい薬の宣伝がパンフレットやセールスを通して行われる。よくもまあ、こんなに薬を作ってどうするのだろうと思うほどで、以前あった薬との差を見つけることの方が難しいくらいだ。十分今までの薬で満足できる結果が出ていたのに、溶けやすいとかなんとか理由をつけて国から新たに承認を受ける。そして新しい分だけ国が設定する薬代も高くなる。そうして経済の新陳代謝を図るのだろうが、膨大な無駄だ。おまけに同じ内容の薬を沢山のメーカーが作って販売しているのだから、病気の数より薬の数の方が多くて、大量の薬をさばくために病気や病人が作られるのではないかと、推理小説ばりの危惧を抱く。  その最大の製薬会社だけでも研究員が1万人いると言っていた。他の会社を含めると膨大な知的集団だ。誰かが、どこかがリーダーシップを発揮して、全ての知能を難病に向かわすことは出来ないのだろうか。誰だって治すことが出来るようなありふれた病気が利益を生むからか、対象者が少ない難病には知能も経済も注がれにくい。国が、と言うより世界が叡智や資源をそれらに注いでくれないだろうか。薬を飲まなければならない人より、薬を作る人の方が報われるようでは、本末転倒だ。患者様などとどう見ても日本語的にはおかしいような言葉が、消費者というイメージと重なってしまう。聞こえの良い言葉こそ、聞かないがいい。