カルテに名前を書いてくださったのを見て、誤字かと思ったが、ご自分でもそう名乗ったので正しいのだろうと思わざるを得なかった。ただし、確かめるのははばかれたから、そのままバインダーに閉じた。
泌尿器科に数か月かかって改善しなかったものが2週間で効果を感じてくださって、90歳を超えているのに遠方から再びバスを乗り継いでやってきてくれた。喜んでくれたのを見て僕も嬉しいから、親近感が一気に沸いた。だから2週間前に尋ねられなかったことを気楽に尋ねてみた。
「ご主人の名前の中に捨てるという字がありますね。捨男と言う名前は初めてみましたが、どうして親御さんは、こんな字を使ったのでしょうね?」
すると男性は、「昔は病気で赤ちゃんがよく死んでいたから、いったん捨てて、生き返らせればなかなか死なないと考えていたらしいですよ。だからいったん捨てて、すぐに拾いに行ったらしいです」
こんな話は聞いたことがない。ふざけた名前ではなく、親の気持ちが詰まったとても優しい名前なのだ。
あまりにも衝撃的な出来事だったので、インターネットで検索してみたら、僕と同じように不思議がっている人がいて質問していた。なるほど人の感性など似たようなものなのだ。知識がなければ、誤解してしまう。