2010-02-01から1ヶ月間の記事一覧

津波

日本で看護師として働くために来日している外国の方が沢山いる。すでに実際に業務に就いているのだが、正式な日本の免許を取るために、仕事の傍ら勉強をしている。ところがこれがめっぽう難しいらしくて、と言うのは試験問題が日本語で実施されるからなのだ…

窮屈

「ああ、スッキリしました。今日は来てよかったです」こちらが思う以上に喜んでもらったが、この程度のことで喜んで貰えるのかとこちらが寧ろ面くらうくらいだ。 何不自由なく暮らしていたそうだから、そちらの方が問題だと思うのだが、何不自由なくの中に、…

ベンツ

ケンとメリーの愛のスカイラインがやたらテレビで宣伝されている頃、僕は繁華街にあるパチンコ屋に行くために毎日バスに乗っていた。バス停までは歩いて数分のアパートに住んでいたから便利だったし、学生で車を持っているのは珍しかったから、高嶺の花とも…

言葉

昨日は朝起きたときから調子が悪く、時々布団に入って休みながら仕事をした。昼寝などと言うことは出来ないたちだから、世間が動いているときに布団の中で眠るってのはなかなか耐え難い。でも横になっていないと持たないような気がしたから、下から呼ばれる…

約束

年齢と共に、どうやら約束と言うものはなかなか出来にくくなる。己の力が分かってくることもあるし、持って生まれた純情がさび付いて枯れてしまったこともある。明日の登校さえ約束する幼い頃の純情は、雑多に詰められたおもちゃ箱と共にもうとっくに捨てた。…

子育て

僕の好きな光景が又一組やってきた。よい家庭を簡単に見分ける方法でもある。滅多にないから余計目立つのかもしれないが、こちらまでほのぼのとした柔らかい空気に包まれる。 思春期の子供は難しいなんて気取った大人のようなことは言いたくはない。大人に成…

拒否

別に声を落として言う必要もないが、実は以前一人だけ、薬を作るのを断った人がいる。よその町からわざわざ相談に来たのだが、応対しているうちに段々耐えられくなった。何の病気の相談だったのか忘れたが、僕の所に来る前にかかった病院や鍼の先生などのこ…

ホームレス

もしあの様子を大学の研究室で見かけたら、思索にふけっている教授に見えるだろう。もしあの様子を昼下がりの公園で見かけたら、束の間の休息を取っているエリートサラリーマンに見えるだろう。もしあの様子をファーストフードの店で見かけたら、授業をさぼ…

呪縛

僕が若者と真剣に向き合って話が出来るのは皮肉にも薬剤師と患者としての立場だけかもしれない。いやいや、世代を問わず、その関係以外にはないのかもしれない。 今日もある若者と数時間一緒に過ごした。今日は彼のために時間を充分とることに決めていたが、…

招き猫

今薬を持って出ていったばかりの男性が、薬局の外から手招きをする。薬局の中から手を振れば招きおじさんくらいにはなるが、外から手を振られたら追い出しおじさんだ。70歳、色黒、ダンプに乗っていた頃の面影どおり人相は今だ悪い。そんなおじさんの仕草…

無駄

ついに言ってしまった。黙っていればよかったのだが限界だった。 市の職員が詳細に渡って説明してくれるのだが、数字の羅列だからさっぱり分からない。ロシア語くらい分からない、いやいやタガログ語くらい分からない。要は何一つ分からないのだ。何ページに…

ビオフェルミン

見たことのない若い女性が、シャッターを開けるとすぐにやって来た。「ビオフェルミンを下さい」と頼まれたから、大きいのと小さいのとどちらが必要かを尋ねたらすぐに答えが返ってこなかった。薬を指名したのに大きさに迷うから「どうしたの?」と尋ねてみ…

喜び

ああ、この喜びを出来たら今日と明日に分けて欲しかった。1日のうちに2つも喜びがあるのはもったいない。 まだ薬は一杯残っているはずなのに、このタイミングで電話がかかってきたから朗報だとすぐに分かった。お母さんの表現では、毎日ののたうち回るほど…

横断歩道

・・・夜勤中、職場の患者さんから、「○○さんがいると安心して眠れるよ。」と言われ、涙が出てしまいました。経済的、精神的、肉体的に決して楽ではない仕事ですが、もう少し頑張ろうと思います。今年はケアマネージャーの資格を取ろうと思っています。・・…

水路

自分より大きい猫を追っかけたのはテリトリーを荒らされたせいではない。一緒に遊んでもらおうとしただけなのだ。自分が犬と思っているのかどうか疑わしいから、友情が空回りした。 白い大きなネコが逃げたのはその友情が煩わしかったのか、それとも紐を握っ…

通販生活

何を頼んでも断らない人がいる。実際には断れない人と言った方が正しいのかもしれないが。 嘗て僕もその種の人間で、頼まれれば快く引き受けることをモットーにしていたが、最近は期待に応えられる体力が底をついているので基本的には全部断るようにしている…

揚げ足

国会中継やテレビのくだらない討論を見たり聞いたりしていて気分が優れないのは、次元の低い揚げ足の取り合いだからだ。肩書きがそれなりに出来ると、素直に相手の言い分を認めたりしたら敗者にでもなってしまうとでも言うのか。それともタレントに成り下が…

刺身

僕は感動して返事をする度に「刺身」「刺身」と言っていたことになる。僕の口癖の感嘆詞がかの国では刺身と同じ発音らしい。変わった日本人だと思ったかも知れないが、言葉の壁が逆に僕の本質を隠してくれたことになるのかもしれない。 韓国から6人の神父様…

西島秀俊

優しい声だったし、丁寧な物言いだったので緊張することはなかった。おしかりでも受けるのかと思ったら、ある患者さんがとても調子が良くなって有難うございますとお礼を言われた。お礼を言われるようなことはしていないが、患者さんが、先生が見ても調子を…

突風

出来れば名前を名乗って欲しかった。結局は処方箋を見て経緯が分かった。 こんな処方箋をもらっても作ることが出来るところは滅多にないのではないか。沢山の人の声が電話の向こうから聞こえていたので、病院の職員が電話をかけてきたのだろうが、要件は、保…

吉本

大学病院の医師が「東洋の神秘ですか?」と言ったらしい。 僕にとってはすこぶる簡単な理屈だったのだが、そんな簡単な理屈が大学病院では通るはずがない。僕なんか足がぱんぱんに腫れていたら、筋肉部分に水が溢れているのだろうと簡単に推論してそれをさば…

目的地に急いでいたのだが、原因を確かめてみたくなった。ハンドルを握りながら危ないけれど空を見上げながら追跡した。 それは未だ見たことがない光景だった。児島湾大橋を渡り終え、淡水湖に沿って県道を走っている時だ。目の前に広がる淡水湖の西側を、ま…

羅針盤

お世話になっている若い税理士さんが自嘲気味に、パソコンなどが進歩するに従ってどんどん忙しくなっていると言った。作らなければならない書類などが逆に増えたような気がするからだそうだ。 それを聞いていて、僕もなるほどなと頷ける部分が多かった。薬局…

駐輪場

風もなく晴れ上がった冬は気温を容赦なく下げる。校舎の3階から眺める海の景色を真正面の高層マンションが丁度二分している。校舎のベランダに立つと手先と足先がかじかむ。太陽の光だけは春を先取りしているが、教室で真剣に黒板に向かっている生徒達には…

気まぐれ

不謹慎かもしれないが、僕が一番聞きたかったのは「その時自分はどうしたの?」につきる。滅多に経験することでないから、興味本位と言うような軽い気持ちではなく、本心で体験者の具体的な声を聞きたかったのだ。何かにその経験を生かせると思ったのだ。 胃…

製造中止

又かと言いたくなるが、目の前に腰掛けているセールスに言っても仕方がないので黙っていた。ひたすら低姿勢で彼は謝っていたが、僕に謝ってもらう理由はない。何回「どうってことないよ、自分のせいではないのだから」と繰り返してもただただ謝ってくれる。…

モデル

別に自慢げに見せてくれたのではない。数日前、急に襲われた腰痛を急いで治さないといけない理由を教えてくれるために、財布からおもむろに取りだしただけなのだ。それはそうだろう、もう数年体調が悪くなるとその都度漢方薬を取りに来てくれる女性だから、…

完結

30年も現場にいれば、薬がどのくらい効いてくれるかはだいたいが想像つく。薬局は何でも科だから雑病を基本的にはお相手するのだが、こちらの頭も雑だから丁度バランスがとれているのだろう。 ところが時に実力を越える相談が舞い込む。この場合は、必然的…