西島秀俊

 優しい声だったし、丁寧な物言いだったので緊張することはなかった。おしかりでも受けるのかと思ったら、ある患者さんがとても調子が良くなって有難うございますとお礼を言われた。お礼を言われるようなことはしていないが、患者さんが、先生が見ても調子を上げていることが分かるんだと、それが嬉しかった。僕の主観では頼りないが、専門家の先生が認めているのなら確かだ。 調子が良くなれば薬を止めたくなるのは誰でも当たり前だが、減量に当たっては専門家の厳密な指導の元に行われなければならない。その大切さを共有してくださいという示唆だったのだが、僕も今の好調さを維持してもらうために少しでもお役に立てれるのではないかとすぐにメールを送った。関東に住む先生が自分の住所とクリニックの名前を言われ、僕にどちらですと尋ねられたので「岡山」ですと答えたら驚いていた。  彼女の調子が良くなったことに僕が少しだけ関与できたとしたら、それは漢方薬だけのおかげではない。彼女は薬が無くなると毎回電話をくれたのだが、そこで数分間話す事が出来た、そのおかげだと思う。僕は彼女が決して人を傷つけない、それでいて容易に傷つけられ、それでも人を恨むことなく生きていることを知った。そんな彼女の苦しみを少しでも取り除けたらと切に願った。彼女が僕との話で笑ってくれたりしたらメチャクチャ嬉しかった。回を重ねるごとにしっかりしてきたなと感じていたが、今日先生からお話を聞いて、もっともっと快調になって、青春を謳歌してくれたらなと願わずにはおれなかった。 その為に僕はつかの間の友人でいればいいのだ。親子以上に年が離れた友人でいいのだ。岡山弁丸出しで、権威まるでなしの遠く離れたおじさんでいいのだ。身の回りにいる人に相談できずに一人で勝ち目のない相手と戦っている人達が、せめて何でも言える友人でいればいいのだ。たまたまちょっとだけ漢方薬について知っているおじさんでいいのだ。それがたまたま西島秀俊に似ていれば尚更いいのだ。