羅針盤

 お世話になっている若い税理士さんが自嘲気味に、パソコンなどが進歩するに従ってどんどん忙しくなっていると言った。作らなければならない書類などが逆に増えたような気がするからだそうだ。  それを聞いていて、僕もなるほどなと頷ける部分が多かった。薬局の中でもコンピューターを組み込んだ器機が沢山あって、調剤や書類作成、処方箋請求事務、相談業務など多くに貢献してくれている。もしそれらの機械がなくなれば、何人のスタッフで穴埋めしなければならないだろう。恐らく数人の人間が新たに必要になると思う。いわば数人分の労働をパソコンを駆使してこなしていることになる。そうしてみれば忙しくなるのも当たり前なのだが、時間も健康も経済も、ひたすら出ていく物になった。手に入れる物ではなく出ていく物、運がよくて収支トントンだ。色々な便利を駆使して自分の首を絞めているわけだが、これから先、行き着くところが想像できない。いや、行き着くところさえないのではないか。  漂着は目指すところに愚弄され、羅針盤はこびた笑いを浮かべる。