魅力

 意外性に優る人の魅力はない。この男性もその最たるものかも知れない。詳しく説明すると個人情報の漏洩になるし、詳しく話さないとぴんと来ないし、ここは思案のしどころだ。まあ、その男性の善意に少しだけ甘えるしかないか。 僕は何故か彼を、おじゅっつあん(僧侶)のように思った。容姿からではなく話しぶりからだ。一種独特の間合いを持っていて、まるで俗世間を超越しているように感じたのだ。僕より随分若いのだが、落ち着きはらった話しぶりは今しがた山門をくぐり石段を下りてきた人のように思えた。  話している途中に彼は仕事を音楽関係だと言った。僕は色々と詮索するのが嫌いだから、体調に関する質問しかしない。だから恐らく何かの弾みで彼が口に出したものだと思う。その音楽関係というのがなんだかぴんと来なかったが、逆にそれだからこそ、その言葉だけが頭の中にずっと残っていた。いわば、未解決の問題の如く。  後日、彼を紹介してくれた鍼の先生と電話で話しているときに、彼がサックスの名手だと言うことを知った。正直これにはかなり驚いた。彼の言う音楽関係という言葉で、せいぜい結びつけれたのは、何か企画をする人くらいなところまでだったのだ。それ以上は想像力も及ばない世界だった。ところがなんと彼はミュージシャンで、それもサクソフォーンだと言う。北極から南極を眺めているようなものだ。あり得ない組み合わせ。あの独特の雰囲気は、仏教の世界だと勝手に決めていたのに、それが西洋の楽器吹きだとは。  これだからこそ人間は面白いし、素晴らしい。見たとおり、想像したとおりだと奥行きが全くない。彼は自分の魅力をベールで覆って、神秘性さえ与えた。もし彼が自分の口からあからさまに正体をばらしていたら、こんな余韻は生まれなかっただろう。いくらサックスの名手でも音色で1ヶ月も余韻を残すことは出来ない。彼は音色以上のサプライズをやってのけた。  彼を真似て僕も奥ゆかしくサプライズを狙う。スポーツならセパタクロウ、音楽ならどどいつ、俳優なら西島秀俊