高飛び込み

 高所恐怖症の僕とはとても結びつかない話題だが、とても面白い話を聞いたので皆さんに披露する。実生活では何の役にも立たない取るに足らない話題かもしれないが、恐らく多くの人が知らないことだから敢えて書かせて頂く。 鍼の先生の縁で今日訪ねてきてくれた女性が、高飛び込みの選手なのだ。マイナーな競技だから、この手の選手と遭遇するのは非常に珍しい。チーム青森に出会うより難しいかもしれない。仕事上の話がすんだ後、少しだけ高飛び込みに関する話をした。と言うのは、この女性との縁で鍼の先生が無謀にも10メートルの高さから飛び込んだらしいのだ。彼がその時の経緯を小学校のPTA会報に寄せていたが、恐怖感の下りは別として、背中から落ちて数日間赤く腫れていたらしい。その記事の話題から入っていたのだが、実際には相当危険なスポーツなのだ。目にするのはプロが水を切るように飛び込む美しい姿だけだから、恐怖に関しての関心はあったが、危険に関して想像力が働くことはなかった。  女性などでは、頭以外から落ちると、水着の下の皮膚が切れることもあるらしい。又時には内臓から出血して口から血を吐く人もいるというのだ。10メートルの高さから飛び込めば、ダメージはコンクリートと変わらないと言っていた。コンクリートだったら死ぬ可能性が高いから、これはちょっとオーバーかもしれないが、それだけ衝撃は激しいと言うことだろう。頭から上手く飛び込めば衝撃は少ないらしいが、それには一つだけ必須のテクニックがあるらしい。それは映像では分からないが、手のひらを水面に平行にして落ちることらしい。そうすることによって衝撃を和らげ頭を守るのだそうだ。まさか着水時に、恐らく美しくない光景だから一瞬の出来事なのだろうが、そんな防御をしているとは思わなかった。綺麗に水を切るように着水すれば衝撃はないのかと思っていた。恐らくこのことは、ほとんどの方が知らないのではないか。独り占めにするにはもったいないくらいの情報だったので、知ったかぶりをちょっとだけさせてもらった。  それにしてもごくありふれた日常に、誰もがただの人として登場する光景の中に、個性豊かな人が一杯いるものだ。誰もが誰にもない個性や才能を持っていて、きっと自分が思う以上に豊かな人生を送っているのだろう。一番気がついていないのは本人かもしれない。歳をとるに従って、少しだけ誰をもいとおしく感じることが出来るようになるし、誰をも許すことが出来るようになる。わずか椅子に上がって震える足も、ごく普通の人達の謙遜な日常を見て震える心も、高きところが苦手な僕そのものだ。今更、高所恐怖症を克服することは出来ないが、せめて立派すぎる人や話が苦手な高尚恐怖症だけでも克服したいものだ。