「昨日は休みだったんだろう、煎じ薬が2日切れた。切れたら一気にムカムカして何も食べれない」ソファーの縁に少しだけ腰を残し、のけぞるように腰掛ける。足を組み身体をひねっている。斜に構える癖は体も心も同じだ。  僕が右と言えば左、左と言えば右というくせに、結構気配りをするものだ。病気が病気だから嘗てのように図々しいくらいの行動でもいいのだが、遠慮して電話もしなかったらしい。一人住まいで心細いだろうにと思うのだが、そんなこと微塵も出さずに粋がっている。 入院による放射線治療に引き続き、退院してからは抗ガン剤の服用。入院中から味覚がくるって、食べ物に味はしない。それだけならまだ辛抱できるが粉類が飲み込めないから肝心のご飯も食べれない。処方箋を何故か僕の薬局に持ってきたのがよかった。漢方薬をしばしば作っていたからその延長なのだろうが。「もう入院の時のように薬でやられるのは我慢できない」と弱音を吐いたから、それでは副作用防止の漢方薬を飲みながら、病院の抗ガン剤を飲もうと言うことになった。煎じ薬でしか作れないと言うと、いつものように一応文句は言ってみるものの、しぶしぶを役者のように演じて承諾した。初めから何でも頑張って飲むなんて言えば可愛いが、口が裂けてもハイとは言わない。 抗ガン剤が進歩して、癌の方がずいぶんと長生きになった。副作用さえ克服できればよい治療が受けれる。その役に立てるよう努力しているが、結構何百年も前に考えられた処方が効くものだ。昔の人の偉大さに驚くばかりだ。  病院の治療費、個室代、漢方薬代、お金ばっかりがいると言うから、いつものように「田圃でも売ったら」と言っていたら、本当に畑を一つ売りに出していた。偶然畑に立てられている不動産屋の看板を見つけたのだが、土地がある人はこんな時に強い。「パチンコで稼いできたら」ともよく言うのだが、さすがに今はその体力はなくしているのだろう。彼がパチンコ台の前で、得意の斜に構えるポーズをとる日が再び来るのを待っている。