危機一髪

 他人からしたらそんなに大げさな事と思われるだろうが、僕としたら危機一髪と表現できるレベルだった。
 このところニュースでも時々伝えられているが、この1年くらい調剤用の薬がなかなか手に入らずに、綱渡り状態だ。ジェネリックの会社の不祥事やコロナで処方に偏りが出来たりで、スムーズに生産流通が出来なくて、ほんの少しの量が時々入ってくると言うなんとも心細い状況に置かれている。
 当初は現代薬に限っての滞りだったのだが、最近になって漢方薬でも同じようなことが起こり始めた。コロナに使うための処方の欠品が多いが、そんなにお医者さんが漢方薬を使っていたの?と言う印象だ。決定打がないコロナに、漢方薬を飲ませるメリットが大きいのだろう。解熱剤や咳止めを出すより立派に見えるから。
 今日僕が、いや正確にはこの1週間ヒヤヒヤ状態で過ごしていたのは、薬ではなく分包紙不足のためだ。いつもなら注文して数日で届くのに、2週間経っても品物が来ない。催促すると来週にはと言う返事が来た。ただし、今日の時点であと数人しか作れない状態にまで追いつめられているからほとんど焼け石に水だ。
 そこで数年倉庫に眠らせておいた、古いタイプの分包紙を引っ張り出してきた。これがまた重いので、ちょうどやってきた体格の良いフィリピン人に頼んだ。さすがで、僕が3人くらい必要な作業を一人でやってくれた。
 いろんなものが不足がちなのはこの何年間のすう勢だが、僕は石油不足で分包紙が足りなくなっていると思っていた。ところが、急遽製造会社に掛け合って、特別ルートで手に入るように手配してくれた問屋の若いセールスが、「実は先月、分包紙が値上げでして、それを知っていた医療機関がいっぱい買いだめされたんです」と教えてくれた。なんだ、ウクライナ問題が牛窓に響いたのではなく、単なる値上げ前の駆け込みかと、落胆した。この田舎にまで世界情勢が響いているのかと高尚な絶望が、めちゃくちゃ卑近な失望に変わった。なぜなら本当は、若いセールスの説明が「恥ずかしいことですが」で始まっていたから。
 病院の隣に建てられた門前薬局で荒稼ぎ出来ていた古き良き時代も、一世を風靡した古き良き分包機とともに去っていくのか。

 

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