両極端

 二夜連続で、僕の薬局の日常の風景。
 もう知り合って20年にはなるだろう。取引相手の会社が牛窓にあり、仕事の途中にふと入って来たのが最初の出会い。品はないけれど風格はあった。この微妙なアンバランスでなんとなく最初から、馬があったのかもしれない。会社の経営者だがそうは見えない男と、薬剤師だけれどそうは見えない男が出会ったわけだ。
 もっとも当時は彼も若かったから、そして事業家だけあって、イケイケドンドンだった。何で薬局に用事があるのだろろうかと思うほどだが、アクセルしかない人間の特徴でときには、大けがをする。そんなときにだけ出番があり、なぜか遠くからわざわざ頼ってきてくれた。
 そのイケイケドンドンは、時にオートバイ、時にクラシックギター、時に釣り、時にゴルフと多種多様。1日100本の煙草と、1日10杯のコーヒーをたしなみながら、それでも仕事は熱心なのだろう、事業は発展し今や2社の社長をしている。
 そろそろ行きつくと僕が予言しているように、体を酷使し、自由を謳歌した付けは回ってきてる。まるでばんそうこう程度の薬で済んでいたのがそろそろ、僕の得意分野が必要になり始めている。今日もある漢方薬を作って発送したのだが、そのために質問した内容に対する答えは「8悪方ダメじゃった」だった。大きな声で笑っていたが、笑っている場合ではないが、それでも笑う。
 8割だめだたっていうのはつい先日人間ドックを受けた時の結果らしい。今日頼まれたトラブルを治すには血液循環を良くしないと改善しないので尋ねたのだが、これでは治りそうにない。だが彼はそうは思っていない。まだ朝の9時なのに「今日これからゴルフに行かんとおえんのに、どねんかしてえ(ゴルフに行かないとだめなのでどうにかしてください)」と言ってくる。
 依頼されたトラブルにゴルフはかなり悪いのだが、そんなことはお構いなしだ。打つたびに痛みが走ると言うのにまだ行くつもりだ。「とにかくよう(よく)効く薬を作って」数回繰り返して電話を切った。
 たばこ100本の最期は、かなり厳しい戦いになる。想像を絶すると言ってもいいだろう。そのことは伝えているが気には止めない。人それぞれの生き方があるから僕は深くは言わない。ただ一度は言う。何か違う病気でコロッと行くことを願っているが、果たして今までの自由奔放の付けを払わずに済むかどうか。
 この程度の人でも結構健康に暮らしている。このような人種の存在を不思議に思うくらい注意深く生きている人もいる。どちらが健康的で、良い人生を送れるのか分からないが、どちらもがひきつけられて「そこそこ」程度に収まってくれればなあと言うのが、職業的に両極端を見てきている人間の感想だ。