幼馴染

 彼が今日持ってきた来た新ネタは、ある女性の死だ。僕も学校関係の役職に就いていた時に大いに助けてもらった女性だが、若くして亡くなった。最近耳にして、その根っからの笑顔と、根っからの世話好きが、20年以上会っていないにもかかわらず一瞬にして思い出された。多くの人に好感を持たれていた人だと思う。それを僕に知らせに来たのだが、気の毒にも僕はすでに知っていたので肩透かしを食らって、その代わりと言っては何だが、多くの若くして亡くなった人を教えてくれた。そのほとんどの人を知っているから、こちらの方は驚きの連続だった。同級生も数人いたし、少し上、少し下の人ばかりだった。
 「ところで〇〇くん、なんで生きとるん。自分の方が先に逝ってもいいのに、申し訳ないじゃろう」と言うと彼は「自分でもわからんのじゃ」と不思議そうな顔をする。それはそうだろう、アル中でタバコ吸いで、博打で身を亡ぼすし、好き放題で生きてきたのにいまだ生きている。「〇〇くん、お墓はどこに入るの?うちの隣?」と尋ねると、そこはお姉さんが嫁いだ先のお墓らしくて、墓掃除を頼まれてしているだけらしい。「死んでも隣かと思った」と僕が言うと「残念じゃなあ、わしが先に逝ってヤマト君に、早くこっちの世界においで、おいでと招いてあげるのに」と残念がっていた。
 「それなら、お墓はどうするの?」と尋ねると、「そんなものあるもんか、粉にして黒島の沖に撒いといてって頼んどる」と教えてくれた。「今はやりの散骨か?金がないから丁度いいじゃない」と言うと「しゃあけど(だけど)、この前漁師に怒られた。〇〇の骨を海に撒いたりしたら、魚が死んで浮かんでくると言(ゆ)うて」
 午後のひと時、普段は立ち入り禁止の彼だが、スタッフ以外誰もいなかったので、昔のように楽しく話をした。法務局が経営する塀のやたら高い無料宿泊施設からの帰還者のために、人目を意識しながらのひと時だったが(僕は意識しない。彼が流石に意識して人が入ってきたらそそくさと出て行く)薬剤師ではなく、単なる田舎で育った幼馴染としての関係に癒される。