お中元

 前島フェリーは完全に島民の生活の足なのだが、島民の人口が減って、運営が赤字になり本数がかなり減らされた。以前は30分に一本運行されていたのだが、通勤時間帯以外は1時間に1本になってしまった。そのため、運が悪かったら1時間近く待つことになる。今日来たある島民も、その運の悪さを体感した日だっただろう。
 まだクロネコが集荷に来る前だったので内心は焦ったのだが、覚悟を決めてその人に付き合った。ただ僕は転んでもただでは起きない。面白い?興味深い話を聞かせてもらった。
 野菜や果物を作るのが根っから好きな人で、定年退職してから後は専業農家だ。薬局に入ってくるなり、雨続きを嘆いていた。農協の直売所に野菜を卸すために、多品種の野菜を作っていて、計四トラックで納めるついでに残り物をしばしば薬局で下ろしてくれる。ちょうどお中元と言う形を使ってお礼をしなければと、あるお礼の品を用意していたところだ。ちょうど良いタイミングで来てくれたのだが表情は暗い。理由は先に述べた雨なのだが、正式には「雨による病気」らしい。ナスやカボチャにうどん粉病が流行っているらしい。この病気が野菜に付くと表面が白くなって商品価値はなくなる。もし雨が降らなければ、農薬で予防できるが、葉っぱが濡れていては農薬が吸収されずにただ地面に落ちるだけらしい。だから葉が乾いていなければならないのだ。
 話を聞いていてひらめいたのが、うどん粉病の名前の由来だ。単純な発想だ。野菜の表面がうどん粉をまぶしたようになるから「うどん粉病」なのだ。単純。でも分かりやすい。その方に尋ねると正解らしい。
 文章であらわすと、こうしたエッセンスしか書けないが、本当は1時間近く話をして、もっともっと興味深い話を聞いた。あっという間にフェリーの時間が来てお暇を言うので「〇〇さん、これいつもの野菜のお礼、受け取って!」「気を使わんようにしてえ!」
「いやいや、大したもんじゃないから受け取って、高松で買ってきた、うどん粉病じゃから美味しいよ」