前島フェリー2

 処方箋を持ってきた男性が前島の人だから、若夫婦が薬を作っている間に雑談をした。前島の人に尋ねてみたいことがあったのだ。  つい最近、岡山市から漢方薬をとりに来た家族が、漢方薬の注文だけして前島に牡蠣を食べに行った。なんでもフェリーが着く所に緑の観光公社の建物があり、そこの庭で牡蠣を焼いて食べさせてくれるのだそうだ。炭火で焼くからとても美味しく、家庭では味わえない美味しさだと言っていた。どうして岡山の人がそんなことを知っているのか疑問に思ったので、いつか前島の人でそうしたことに詳しそうな人が来たら尋ねてみようと思っていたのだ。それにうってつけの人が来た。  その男性は尋ねるたびに「うちのフェリーは・・・」と言う言い回しをするので役員か株主かもしれない。恐らく昔から前島住民のためのフェリーだから島民は全員株主なのだろう。その男性いわく「結構遠くから食べに来てくれるんよ。この前の日曜日なんか岡山から団体で20人くらい来ていて、牡蠣が足らなくなったくらい。大阪のほうからも来てくれるよ」  聞けば3年位前からこの企画を始めているから結構知っている人が増えたらしい。職員もインターネットなどで宣伝しているみたいだ。僕は3年前に、フェリーで牡蠣の水揚げ現場がある錦海湾の沖に見学に行ったことがあるが、取立てだから美味しさも人気の理由なのだろう。岡山県の牡蠣は1年物だからやわらかくて美味しいらしい。これはテレビで漁師が説明しているときの受け売りだが。  もう1つうれしいことをその男性から聞いた。僕にとってはこちらのほうが圧倒的に価値がある。ずっと前からこうしたことが実現しないかなと思っていたのだ。と言うのは、僕の大好きな四国フェリーが大赤字で便数をかなり4月から減らす。恐らく2時間に1本くらいになるのではないか。今までは四国に行くときにあの1時間の船旅を楽しめたが、これからは時間の制約がありすぎて不便になってしまうのではないかと思うのだ。よほど偶然イベント時間が船の時間に合えばいいが、最悪2時間待ちなどになったら目も当てられない。いやでも瀬戸大橋を利用しなければならなくなるかもしれない。  そうした好ましくないニュースに落胆していたのだが、前島フェリーが小さな船を買って、クルージングをしてくれるのだそうだ。豪華な船ではなく、漁師の船を大きくしたようなものらしいが、あまり運賃が高くなさそうだから、そのほうが嬉しい。高いのなら牛窓には、ホテルリマーニが運航している豪華ヨットによるクルージングがあるから、庶民向けのクルージングが出来たら歓迎だ。「ついでに、四国の高松まで定期航路を作って!」などと勝手なことを言っているが、僕の長年の夢がかないそうだ。  潮風を切って海上を走るのが気持ちの良い季節になれば、僕も以前のように患者さんを招いて、一緒に楽しんでみたいと思っている。ウツウツとした気持ちなど瀬戸内海の波の上に流してしまえ!