側面援助

 確か昨日の午後だったと思う。妻が経理のために使っているパソコンのプリンターが壊れて困っていたのは。その後娘たちが直そうと試みたけれど、何か決定的な破損が見つかり断念していた。僕は漢方薬の調剤に専念していたから、断片的にしか経緯は理解できていなかった。そして今朝。
 8時過ぎに僕は調剤室で漢方薬を作っていた。するとインターホンが鳴った。出てみるといつもは駐車場に置いて行ってくれる荷物の他に、きれいな箱でプリンターが送られてきていた。薬だったら無造作に置いて行ってくれるのだが、さすがにプリンターだから用心のために「お知らせしました」の事だった。
 キツネにつままれるとはこのことだろう。昨日の午後が正確には何時ごろだったか分からないが、新しいパソコンが届いたのが朝の8時。まるで半日で届いたようなイメージだ。1日をイメージできない。どこから届いたのか分からないが、こんな山奥、いや海辺にこんなに早く届くとは。
 もともと車で1時間以内で岡山駅を始め岡山の中心部に行けるから牛窓で不便を感じたことはない。ほしいものはすべて手に入るし、行きたいところには行ける。小さな商店しかないが、そこで手に入らないものでも少し車で走ればすべて手に入る。東京に行かなければ手に入らないようなものは、いやいや東京と言わなくても、大阪や神戸に行かなければ手に入らないようなものは、もともと金がないから手が届くものではない。牛窓に住んでいれば身の丈に合った経済活動ができる。
 職場から家までに誘惑されるようなものがないから、健全な胃袋で家に帰れる。この日常はおそらく寿命をかなり伸ばしていると思う。人体実験できないからわからないが、胃や肝臓、しいては腎臓に血管、すべての負荷を回避できるのだから長生きしないはずがない。おまけに、見るのも嫌なような人間が圧倒的に少ない。金の亡者のような奴はいないし、権力欲で醜い政治屋はいないし、すごんでも何の儲けもないから、御法度の裏街道を行くような人間もいない。みんなごく普通の人間。小さな満足で生きていけれる人ばかりだ。
 逆に、次なるものに価値を見出せれない人には説明しても無駄だが、山の緑、海の青さ、雲の流れ、鳥の飛ぶ姿、木々の葉を落とす風などは、命を長らえてくれる。健康も授かる。インターネットの恩恵が、こんな田舎の長所を側面援助するとは意外だ。