苦手

 数ある苦手な事のうち、これは筆頭に来るかもしれない。
 昨日ある高齢男性に緊張した場合に飲むといいと渡していた薬がよく効いてお礼を言われた。僕も飲んだほうがいいのかと一瞬迷ったが、僕と彼では理由が違う。
 彼の場合は明らかに緊張だ。緊張していなければ何もい問題ない。ただ僕の場合は根っから苦手なのだ。机の上に物が数点置かれ、それを片付けた後並べられていたものが何かをあてる試験だ。実物か絵か知らないが、僕はこれがかなり出来ない。もっと言うと昨晩食べたおかずをあてられたことがほとんどない。
 もともと食事に無頓着な方だから覚えられないのではと自分に言い聞かせてきたけれど、それが実害を及ぼす可能性があるので少し焦り始めた。
 昨日の男性は、運転免許の痴呆の試験で緊張のあまり頭が真っ白になることを心配していた。薬のおかげで100点だったとわざわざお礼に来られたくらいだからよほどうれしかったのだろう。
 僕の場合は興味があるものとないことに関して頭の回転が極端なのだ。食べ物に固執しないたちだから、満腹になればいい。およそごちそうなどには頭が回らない。だから最初から頭には入っていない。人の名前もそうだ。カルテを見ればわかるから覚えようと言う意識はない。よほど印象が強ければ自然に覚えてしまっているが、基本はカルテを見るかかスタッフに尋ねる。
 学生時代、化学構造式を覚える試験にかなり苦しんだが、その時僕の頭にブロッキングを起こさせた理由が「教科書に出ているではないか!」だった。そのころの癖がいまだ抜けきらない。都合の良い癖だったが、現代ではその癖もスケールを大きくして、世の中のほとんどのことは「インターネットに出ているではないか!」で逃れられそうだ。
 もう一つの、指一本で動く頭を与えられた現代人は、どうやって勉強のモチベーションを維持するのだろう。

 

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