潔癖

 歳のせいか、早寝のせいか、季節のせいか、恐らくその3つのせいで毎朝5時には目が覚める。布団の中でまどろむというのは好きではないので、目が覚めればすぐに起きあがる。それから新聞を読んで、野良仕事?に出かける。薬局の前の駐車場の一角に作った畑に生えた草を抜くのが最近の重要な朝のお勤めになっている。熊手、鍬、4本鍬を手に勇ましく道路を渡り1時間くらい作業をする。  ところが、日を重ねる毎に腰痛が激しくなってきた。いざ始めると潔癖な性格のせいでやり残したところがまだらで存在するのが耐えれないから、結構中腰やしゃがみ込んで作業を続ける。そうした姿勢だと、ものの数分もしたら痛みを感じ始める。本格的に痛めたら仕事に支障が出るし家族にも迷惑をかける。そのことが分かっているからブレーキを早めにかけようとするのだが、実際にブレーキを踏み込むのは随分と後になってからだ。  この経験からお百姓さんの苦労の一端が少しだけ理解できたような気がした。今までは体調まで想いを致すことは出来なかった。実際に経験してみて僅か数分しか持たない僕の何十倍も作業を継続する農家の人達の凄さが良く分かった。  その苦労を知らずに僕達は「耕す」という言葉をしばしば使う。農作業で使うのは当然だが、その言葉を専ら比喩として使う。ところが最近の僅かばかりの農作業の経験でその言葉を軽々しく口にすべきではないような気がして来た。何か不謹慎な感じがしてきたのだ。何の苦労もせずに言葉遊びだけで使うことに今では後ろめたさを感じる。  毎日昼頃までは腰をかばいながら仕事をしている。でも一晩で景色が変わるくらい勢いがよい草たちの前で、敵前逃亡は出来ない。なんでこんなことだけ潔癖なのか良く分からないが、個性に苦しめながら、明日の戦いのシミュレーションのために目を閉じる。