「オトウサン コドモ ナニシテル?」と鍬を持つ手を休めて尋ねられた。一瞬答えるのをためらったが、嘘はつけないから「キャンプに行っている」と答えた。思わず女性は噴出したが、内心はどう思っているのだろう。
 彼女たち7人は午後の班で、既に1時間作業を続けていたから、休憩してもらおうと娘が提供してくれたジュースを持っていった。硬い土を耕して、笹の根を取り除いてもらう作業を先々週から、まったくのボランティアでやってもらっている。全員が農家の娘だから、鍬やスコップの使い方にはとても長けていて心強い。ただいくら若くても無理をしてもらっては困るから、作業は2時間に決めている。午前の班の7人はそれでも3時間やってくれた。こちらが恐縮する。3時間中腰になりながら、鍬の柄が折れるくらい硬い土を、耕しては深く張った根を抜いていく。
 これだけの好意に何のお礼もしないのは耐えられないので、今朝は6時半に備前真魚市に行き、水揚げしたばかりの魚を買ってきた。先週のお礼はおいしいパンだったが、ベトナム人はフランスパンを好むから、日本の柔らかいパンは意外と受けなかったので、以前何度も朝市に連れて行って、魚好きなのが分かっていたので今日は魚をお礼にすることにした。買い物が苦手な僕は、自分で買った経験はないのだが、今日は品定めをして喜んでもらえそうな魚を買った。結構自分では新鮮な体験だった。30分で行ける距離だから、何ら負担はない。
 1時間経ったらジュースを出し、終了時に魚を持って帰ってもらう。慣れないことだから一応のシミュレーションをしておいた。
 午後の部は同じようにジュースの後スイカに決めた。これも昨年彼女たちがスイカをとても喜ぶことを目にしていたので、まだあまり出回っていないことを確認して、先週から決めていた。
 午前の部が終わったらすぐに西大寺のスーパーに行き、スイカを買い、折れて使い物にならなくなった鍬も買った。3人が鍬を使い、3人が土の中から根を引き抜く。自然にできる役割分担が見ていて心地よい。遠く故郷を思い出すのではないかと言うくらいの鍬使いも然り。
 3週に渡って、これだけのことをやってもらっているのに、家族で僕以外は全くの無関心。まだ誰もお礼も言っていない。わずか数十メートル先で笹の根と格闘しているのに。ただただ恥ずかしくてつらい。
 ちなみに午前の7人も、午後の7人も「オトウサン チャイティーン ダケ イイ」と言ってくれた。チャイティーンとはちなみに心のこと。肝心のそれがないのだ。

 

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