心根

 僕には無理。
 年齢が一回りは大きい男性が軽トラックから降ろしてくれたスイカを、そのまま事務室まで運んでくれた。手伝いたくても腰がやられそうで、申し訳ないけれど僕はただ見ていた。
 運んでくれた男性はずっとお百姓をしているから、その勲章で30度くらい前かがみになっていて、膝はO脚気味だ。引きずるようにして歩くから、歩みはゆっくりだ。
 今年初めてのスイカをくださったのだが、今までで一番おいしかったと言って過言ではないくらい美味しかった。僕があまりの感動にそのことをお礼がてら言ったものだから、数日後に再び持ってきてくれたのだ。最初が4つ、2回目が3つ。
 事務室に降ろしてくれたスイカを2階に持って行こうとして、実際の重さに驚いた。それこそ腰がやられそうだった。今日薬を取りに来たから、あれだけの重いスイカを広い畑で収穫して運ぶのは大変でしょうと言うと、「大きなのは10kgくらいあるからなあ」と言った。10㎏、いまの僕には挑戦をためらうくらいの重さだ。腰を傷めると仕事ができないから絶対避けなければならないことの一つなのだ。用心深いくらい用心している。おかげでこの数年仕事を腰の痛みで休んだことはない。ぎっくり腰の常連だったのだが、運よくまぬかれている。
 何度も繰り返すが、僕が人格を形成するのに(大した人格ではないが)大いに影響を与えられたのは、お百姓さんと漁師の働く姿を目の当たりに見ながら育ったことだ。幼稚園に入るまで預けられていた母の実家はお百姓だったし、祖父が船専門の鉄工所を営んでいた縁で、漁師が毎日のようにやってきていた。おまけに魚市場が真正面だったせいで、遊び場が市場の中だった。
 体が資本の労働、自然相手の労働、両者は共通していることが多い。なんとなくお百姓は穏やかで、なんとなく漁師は気が荒いが、生きる上では最重要の職業だ。その地位が恵まれているとは言えないのに、黙々と働く姿が好きだ。定年のない職業で、とことん体を傷めてもなお、畑や海に出る生き様が好きだ。土のにおいや潮のにおいをまとう姿が好きだ。
 男性によると、スイカの味は、その土地、その土壌に8割由来するらしい。人の手で変えられるのは2割に過ぎないらしい。ひょっとしたら僕もスイカと同じ。不器用なお百姓や漁師から8割の心根を頂いているのかもしれない。

 

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