再現

 道路の反対側からだからはっきりとは分からなかったが、大きな麦藁帽をタオルで頬被りした上から被り、長靴で茶色のズボン姿でしゃがみ込んでなにやら農作業らしきことをやっている。白いTシャツと茶色のズボンのコントラストが野暮ったく見える。もっとも農作業をするときに着飾る必要はないから、野暮ったいので十分だ。
 僕がかの国の人のために寮として手に入れた土地は、元々田んぼだったので土が肥えている。正しく作れば、野菜を多く作ることが出来るだろう。彼女達のほとんどは農村部出身だから基本的には農作業をすることが出来る。だから春が来るのを心待ちにしていた。と言うのは作りたい野菜が一杯あるのだ。種も法律違反だろうが結構持ってきている。
 道路を渡り、農作業をしている家の裏側に回っていくと、一人のかの国の女性が黙々と作業をしていた。その姿は正に周囲の里山に馴染んでいて、昔預けられていた母の里で毎日見ていた光景だ。もんぺ姿で鍬を担いで夕方に帰って来るおばの姿を今でもはっきりと思いだせるが、目の前で同じような光景が広がる。僕はそうした光景が好きだ。かつては日常のごくごくありふれた光景だっただろうが、今では滅多に目にすることはない。まして30を少しばかり超えたような女性が農作業をしているところなど見たことがない。
 同じ作業着を着て1列になって自転車をこぎ出勤する姿に興味を持ち、野暮ったい服装で農作業をする光景に興味を持ち、僕はこの国では失われた光景をいみじくも再現するかの国の人たちに感激しているのだろうか。