覚悟

 「ギンコウニ 500マンエン アル」と言うから、よく頑張ったんだと感心した。だから今度は学生としてやって来て、知識を得るのだと思った。決して賃金や労働条件に恵まれているわけではない研修生として3年間、牛窓で本当によく頑張ったと思う。嬉しそうな顔をした僕を画面の向こうから怪訝に思ったのかすぐにその子は付け加えた。「カリ アル」と。  「なんじゃ、借金か!」ただ、かの国では借金というのはあまり珍しいことではなく、一緒に働きに来た仲間同士で簡単にお金の貸し借りをする。そうしないと生活が成り立たないのだと思う。傍で見ていると、又話を聞いていると如何にも国民性だと思う。見ていて美しいほどの相互扶助だ。ただ、500万円はかの国では大金過ぎる。庶民が返すことが出来るのだろうかと心配になる。彼女が日本で稼いだお金の多くを両親のために送っていたことは知っていたが、それだけの高額な借金とは思ってもいなかった。  彼女が帰国するときに、又日本に来たいと言った。僕は半分冗談で「学生という肩書きで、本当は遊びに来たいんだろう」と言ってしまったが、そして彼女はそれに笑いで答えてくれたが、内心は秘めたる決意があったのだろう。それが証拠に、今かの国で働いて得られるお金の半分は家賃に消え、後の残りは食費と日本語学校の授業料で消えている。全然お金は残らないらしい。それでは借金の残高は減らないだろう。お父さんが懸命に働いているらしいが、未だ妹が幼くて大変だとも言っていた。  「ワタシ オカネ タクサンモラエルシゴトスル」と言うのも頷けるし、是非その為に出来る手伝いはしてみたい。ただ彼女が上げた職業は看護師だった。教会でフィリピン人の看護師が日本の看護師を目指して頑張っているのを何人も見てきたが、結局全員夢は叶わなかった。本国では既にキャリアを積んでいるのに言葉の壁に阻まれた。言葉は勿論、専門的な知識もない彼女が果たしてその資格を得ることが出来るのかどうか分からないが、両親を助けるといういちずな思いを叶えさせてあげたいと思う。  まるで娘のように振る舞い、まるで娘のように扱った子が未だ僕に話していなかったことを話してくれた。僕や妻を頼って再びやってくる子の覚悟に負けない覚悟が、僕にも必要なのではないかと思っている。