天災

 ど、ど、ど、どうしたんじゃ!いやこれでは足りない。ど、ど、ど、ど、どうしたんじゃ。  しばしばやってくる漁師が心配顔で入ってきて「明後日、大きな地震が来るらしい、みんながそう言ようる(言っている)」と言うが、少なくとも僕は言っていないからみんなではない。僕はみんなが言っているというフレーズが嫌いで、その言葉を聞くたびに、あんたが言っているのだろうと思ってしまう。そしてほとんどの場合あたっている。  ただ彼の場合はそれはあたっていない。口べたの人見知りを誠実さだけでカバーしているような人物だ。みんながは、回りの何人かがと言うことだろう。「高知が波にのまれるらしい」と本気で恐れている。もっとも牛窓は海沿いに町が広がっているから、高知ほどではないが、被害はあるかもしれない。まして漁師だから舟を守らなければならないから、僕らより繊細になるのも分かる。  「みんな言うんじゃ、船で逃げれるからいいがって。だけど瀬戸内海で逃げたら津波に向かって逃げるみたいじゃからきょうていわ(怖いわ)」確かに、確かに、水深がかなり深いところだったら沖に出ることも一つの手段らしいが、瀬戸内海では波乗りをしに行くようなものだ。その選択肢はないだろう。  みんなが言っている明後日の津波をインターネットで調べて欲しいと頼まれて検索してみたら、東大の名誉教授の予想がかなりの確率で当たっていることが出ていた。食い入るようにそれを眺めていたが、「いつかは来るんじゃろうな」と何を覚悟したのか、あきらめ顔で出ていった。  天災は守るものの多さに比例した恐怖を伴って身を潜めている。