崩壊

 漁師が「逃げられた」と言うから、当然魚に逃げられたのかと思う。逃がした魚は大きいと言うから、さぞ大きな魚を逃がしたのだろうと思った。  ところが逃げられたのは魚ではなかった。冬の間、牛窓では牡蠣むきが行われる。牡蠣は広島が有名だが、意外や牛窓もかなりの業者がいる。牡蠣むきは1日中腰掛けて、硬い牡蠣を開いて中の身を掻き出すのだから結構力がいる。そして何よりもあの生臭い臭いが衣服に染み付く。だから牡蠣むきの人が買い物にやってくるとすぐに分かる。勿論海育ちの僕達はそれが嫌いではない。ただ、海の人間以外には耐えられないかもしれない。そんな仕事だから、若い人は避ける。自ずと老婆の仕事になる。そこへ降って湧いたのが、あの国の青年達に働いてもらうことだ。間違えないで欲しい。専ら僕のブログに登場するのは「かの国」の人達で、あの国ではない。テレビで毎日のようにあの国の横暴が報道されているが、あの国の人達はよく働くらしい。しかし、今回「逃げられた」のも又同じあの国の人達なのだ。広島の入管に手続きに行った夜、集団でいなくなったらしい。勿論契約期間中だ。  その話をしてくれたのは人の良い漁師で、この人なら逃げられると思った。何億の人間の中で生きていくのだから、向こうの人の生活力は半端ではない。そんな人を善良で不器用な漁師が上手くコントロールできる訳がない。日本の最低賃金で雇っていたらしいが、どこか給料のいいところを見つけたのだろう。いや、恐らく後ろで糸を引く人がいるのではないかと推理していた。  あの国とかの国が争っているのがニュースでしばしば流れる。正直僕はかの国に部はあると思う。僕が実際に接した両国の人の人間性でも圧倒的にかの国の人が優っていたから。この国も、やたらあの国の人を入国させ、僅かばかりの経済的利益のために取り返しのつかない道徳の崩壊を招かないで欲しい。