至近距離

 「ひょっとしたら〇〇さんおならがいっぱい出りゃへん?」と尋ねると、本人は勿論奥さんも認めた。なんでも、あまりにも頻繁に出てその臭さたるや凄すぎて、お嬢さんたちに文句を言われるらしい。
 相談に来た病気とおならがどうして関連しているのか分からないから、二人とも不思議がっていたが、男の膀胱炎は時々こうした理由で起こることもある。他の理由が思いつかなかったのでひょっとしたらと思って尋ねてみただけだ。
 この方は何週間か前に便秘の相談にも来たらしい。娘が応対してそれは解決しているみたいだ。膀胱炎の漢方薬を作ってから帰る前に雑談をした。と言うか嘗てご法度の裏街道を歩く人たちも恐れるくらいの人だったのだが、今は当時の眼光の鋭さはない。むしろ笑顔も多く、人生の後半が恵まれていたのではないかと想像できる。
 僕はこうした人は何となく好きで、ごく普通の人に喋るように喋るし、おちょくったりもする。ある武術の先生でもあるから、至近距離にいるのは危険だが、職業柄その衰えぶりが目についてしまう。それを指摘すると漢方薬で何かいいものがないかと相談を受けたが、潰れ具合が修復するとは思えないので断った。
 嘗ての風を切って歩く姿は今や幻だが、「大和君、教えてあげるよ」と言う言葉はまだ「攻撃された時には十分対応できる」自信の裏付けみたいだ。勿論僕は断った。今更武術を学ぶより、人に理不尽に攻撃されないような生き方を教えて欲しいものだ。

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