丹波黒豆甘納豆

 食べるわ、食べるわ。「遠慮せい!」と言いそうだった。
 二人とも高脂血症タイプだ。エネルギーがどちらかと言うと余り気味。いつも満タンで走っている車のようだ。偶然だが、牛黄清心丸の発売を止めた製薬会社のセールスと、牛黄清心元と言うよく似た名前の薬を売り込みに来たセールス、2時間位の誤差でやって来た。
 彼らの牛黄と言う製品の共通項に対して、コーヒーに丹波黒豆甘納豆と言う共通の接待を行った。見るからに大酒飲みのように見える二人だが、なんともかわいらしく小さな豆を一つずつつまんでは頻繁に口に運ぶ。運ぶものが違うだろうと突っ込みを入れたくなるようなかわいらしい仕草に、よほど美味しい、そして余程珍しいのだと思った。口をそろえて美味しいと言ったが、なんとなく照れていたのも共通だった。「見かけ通りにせい!」と突っ込みを入れたくなる。
 やはり僕は漢方薬とOTCが好きなんだとつくづく思った。分業がほとんど強制的に行われた何十年か前、それなりに頑張ったが、気持ちが入らずに、所詮お医者さんの下請けにしか思えなかった。主導権の全くない仕事にのめり込むことは出来なかった。細々とやっていたそれまでの薬局も、そして当然新たに雨後の筍のように次から次へと出来た薬局も、お医者さんの機嫌を損なわなければ高級車に乗れた。そんな時代だったが、やはり僕は自分の裁量で患者さんのお役に立ちたかった。
 娘が帰ってくれてからは、好きな方を担当できるようになったが、調剤もOTCも漢方もやると言う奇妙な内容の薬局になり、色々な顔を使い分けないといけなくなったが、それでも、いやそれだから楽しく仕事が出来る。
 くだらない話の中にきらりと光る内容をすこしだけ盛り込み僕の気持ちを解放してくれる昔ながらのセールスに今日は癒された。

https://www.youtube.com/watch?v=pOzD4X-sv0I