季節

 まず、5時を回らなければ明るくならなくなった。その後、新聞を取りに出るために、戸を開けると、空気が少しだけひんやりとしている。動きを止めていた季節が再び進み始めたことが、少しだけ体感されるようになった。
 新聞を読んだ後おもむろにドッグランに出かける。いつものように少しだけ歩き、柔軟体操もどきをして体をほぐす。その後やっと焼却機や草刈り機で作業が始まる。ほぼ毎日繰り返される朝の僕の儀式だ。
 今日そんな単調さの中に、ささやかな舞踏会を見つけた。まだ若い赤とんぼが、僕の周りを乱舞したのだ。その数、20?30?まだ幼いのか少し小ぶりだが、高さを変え、向きを変え、僕の周りを飛び回った。 
 僕の頭にすぐ浮かんだ言葉は、味気なくて恥ずかしいくらいだが「トンボ鉛筆」慣れ親しんだ名前が反射的に浮かんだ。知性も何も感じない反射だが、ただし、優雅に飛び回る姿は、平和を連想させた。
 彼らの命がどのくらいあるのか分からないが、僕には命そのものが空を飛んでいるように見えた。現在戦場となっている地の人々は、あのトンボのように、自由に飛び回ることさえできない。トンボより不自由で、トンボより不幸だと思った。
 季節は確かに動いているのに、人為の地獄は動かない。

https://www.youtube.com/watch?v=Qtkm5ZSriNg