母性

 もう数年、お仕事で大活躍している息子さんの代わりに遠路漢方薬を取りに来てくれる女性。
 いつものように会計が終わって、教えて欲しいことがあると改めて言われた。聞きたかったことは、ある病気、癌ではないのだけれどよく似ていて、癌に例えればステージ4にあたると言われて人がいるらしくて、その場合、余命はどのくらいでしょうと尋ねられた。
 その病気の名前を教えてくれたが初耳だった。インターネットで調べると確かに癌ではないが、癌とそっくりだった。何かが違うから癌とは呼ばないみたいだが、素人にとってはほぼ同じだろう。そこで尋ねられたステージ4の余命についてインターネットで調べて似た。
 今は何でも知ることが出来て、病名ごとに、1年後の生存率、2年後の生存率などが詳しく載っていた。そこで同じ消化器系の生存率を参考に数字を口にした。1年で40%台、2年で20%台、そして5年で10%台。
 すると女性が言った。「実はこの話は私のことなんです」と。なんてこと!一瞬にして衝撃が走った。取り返しがつかないことをやってしまった感が強くて、正直なところを口にした。「なんてことを僕に言わせるの!」と。まるで知人か親類の人の話かと思えるほど冷静だったので、まさか本人のことだとは思いもしなかった。だから本当のことを事務的に答えてしまった。まるではめられたと同じだが、ご本人にとっては、悪気など全くなく、それこそ「数年取りに来ている漢方薬を私が取りに来なかったら、息子は来ないじゃろう」と言うのが、余命を知りたかった理由なのだ。
 取り乱すことなく、冷静に受け答えが出来る強さは、母なる所以か。母なる覚悟か。途切れることのない笑顔に感服するが、母性を本能と表現する理由をまざまざと見せていただいた。

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