牛窓花火大会

 もう何年も僕の薬局を利用してくれている人が多いから、今日と言う日は皆さん警戒して、早くやってこられる。いつもやってくる時間帯とはかけ離れた時間にやって来た人がほとんどだ。
 9時に電話がかかり、漢方薬を作っておいて欲しいと頼まれた男性は、1時間くらいかけてやってくる男性。うつうつとして時に仕事に行けなくなるが、煎じ薬を飲むと3日くらいで治り、いつも笑顔が素敵な男性。以前は抗うつ薬を飲んでいたが、そんなもの最初からいらないように僕には思えた。10時ころやって来たから「これからすぐに場所取りに行くんか?10時間待つだけじゃから」と尋ねた。
 その後に来た親子。会計が済んだ後「これから場所取りに行ったらいい席で見られるよ」と言うと、ずっと以前、見に来たことがあり、帰路の渋滞に参ったそうだ。
 昼過ぎに来た女性。「この後、場所取りに行くの?今なら良い席が取れるよ。6時間くらい待っていればいいんだから」すると倉敷から来ていた女性は「今日は総社でも花火がある」と言っていた。倉敷だと総社のほうが近いが、ほとんど興味はなさそうだった。
 以上のような会話をたくさんの人とした。今日は台風のかすかな影響があるのか、風があるがほとんど熱風だ。この中を何時間も花火が始まるのを待てる猛者はいない。だから僕は敢えてその話題を出す。普通の人間にとっては命がけだし、それだけする価値もない。みんないい笑顔でそれぞれ反応してくれた。このつまらない冗談でも、過度な緊張から一瞬でも解放されれば、僕の存在意義はある。
 花火を見て楽しもうかと言うような人は漢方薬を取りに来たりしない。それならいっそ話のネタに使ったほうが、価値がある。

西谷文和 路上のラジオ 第140回「分断と凋落の日本。この危機を乗り越える方法とは?」 - YouTube