予行演習

 それは恐ろしかっただろう。生きた心地がしなかったのではないか。
 不正出血で、かかりつけの先生にかかると、さすがに内科だから分からなくて、婦人科を紹介してもらった。ところがその婦人科が大学病院を紹介してくれたから、検査入院の日まで、それこそ生きた心地がしなかった。
 僕の漢方薬を2年くらい飲んでいるからもう顔馴染で、雑談をする時間も多い。
何とか不安を和らげたいと来られた時には務めて明るい話題で盛り上げていた。
 きょう、検査が終わって初めてやって来た。来月にならないと検査の結果が出ないらしくて、またまた生きた心地がしなくなった。救いは、先生が「大丈夫だと思いますが」と言われたことで、前回薬を取りに来た時よりも不安は和らいでいるようにも見えた。
 せっかくの検査入院だったので、僕も知識のつまみ食いをしたくて、そしてその女性も話さずにはおれなくて、興味深い話を聞かされた。
 笑って話してくれたが「麻酔が覚めずに怖かったです」には僕も一瞬緊張した。僕の場合は永久に覚めてほしくなかったが、その女性の場合は、下半身だけの麻酔だから、頭はしっかりさえている。だから麻酔から覚めないのを心配しながら、看護師さんが冷たいものをお腹に押し当て段々足の方に移動させたり、つまみながら足の方に場所を移動させるのが全てわかる。ところが、お腹の方はさすがに冷たかったり痛かったりするのだが、足のほうに行くと何も感じない。看護師さんたちが不安になっているのが言葉で伝わってくる。もしこのまま下半身の麻酔が永久に切れなかったらと気が気ではなかったらしい。その時の不安を再現してくれたが、「怖かったでしょう」という僕の言葉に大きく頷いていた。
 結局は検査時間が予定時間をかなり残して終わったみたいで、それを「まだ麻酔が切れない」と勘違いした看護師さんがいたみたいで、恐怖感が増幅されただけの話だったのだが、患者さんにそこまで考える経験や余裕はない。
 今だから笑いながら口に出せることだが、その時の不安は半端ではなかっただろう。長く生きていればこその「生きた心地がしなかった」体験だが、この先何年かで必ず予行演習でない本番がやって来る。「生きた心地がしなかったことがわからなかった時」が。

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