大風呂敷

 何年に一度か、今思い起こしてみると、3人は思い出せるから、10年に一度もないと思うが、漁師が海に転落して亡くなることはある。ほとんどの漁師と親しいから、そのニュースが伝わった瞬間の驚きは何十年経っていても思い出すことが出来る。それだけ衝撃的だったのだろう。
 今日処方箋を持って来た老いた漁師と話をしていて、彼もまた海に転落したことが2度あったみたいだ。40年くらい薬局に通ってきているが、その話を聞いたのは初めてだ。90歳が近くなっても尚まだ船に乗っているが、もう歳だから恥も外聞もなくなってつい漏らしたのか、若干痴呆が始まっているからつい漏れたのか分からないが、嘗て理屈屋で鳴らした人でも、そのような失敗をするんだと認識を新たにした。
確かに話を聞いてみると、ちょっとしたことで転落するんだと勉強になった。
 落ちたのが11月だったから、結構家にたどり着いたときは寒くて、湯船に飛び込んだらしい。真冬だったら命があったかどうか。
 岩場の陰に潜んでいる魚を網で取ろうとして、長さ120メートルの網を櫓をこぎながら海底に沈めていたそうだ。もう少しで終わると言うところで大きな横波に襲われた。牛窓の外海は、大きな船が通るから意外と大きな波が遠くからやってくる。船がはるか沖を通るから気が付かなかったのだろう、急に襲ってきた波で船が揺られ不覚にも落ちたらしい。網を持っていたおかげで船から離れることはなかったが、重い長靴で動きが取れなかったみたいだ。そこでライフジャケットを片方だけ脱ぎ、海面に顔をつけ腰を折るようにして長靴に手を伸ばし脱いだらしい。それで動けるようになって、船の後ろ側に回り、低くなっている個所から上ったと言う。得意のほら話ではなく「怖かった~」で終わった。
 「板切れ1枚下は地獄」で生きながらえてきた老人の皺だらけの勲章の裏に、孤独で悲しい思い出も隠れているのだと、ずいぶんと小さくなった体から、敷くことも出来なくなった嘗ての大風呂敷が憐れ。

大炎上!河野太郎のマイナンバーカード名称変更。炎上しすぎて岸田首相より目立っている。名称変更の無意味さについて。安冨歩東大教授。一月万冊 - YouTube