N1

 N1とかN2とか言われてすぐにわかる人は少ないと思う。駐車場の番号くらいにしか普通は思いつかない。
 僕は20年くらい前に、ベトナム人通訳の女性から初めてその言葉の意味を教えてもらい、以来主に通訳や、日本語が得意な外国人と話をする中で、親しくなるツールとしてよく使うようになった。
 Nは日本語検定試験のことで、こんな長ったらしい単語を外国の人が使うわけがなくNの一言でそれを表す。
 最近の通訳はN3が多い。N3だとふだんの日常会話は差し支えなく行われるが、ちょっとした専門的な言葉は分からない。僕がベトナム人と知り合った頃はN2がほとんどだったが、訪日ベトナム人が増えたため通訳の需要が増えて、以前ほど優秀な人だけとはいかなくなったみたいだ。以前は外国語大学出身者が多かったが、今は日本食のレストランで働いていたような人まで通訳としてやってくる。
 実は今日紹介する女性もまさに後者の通訳だったが、3年半しばしば僕と話して、めきめき日本語が上達した子だ。この春に帰国して、今でもスマホを駆使して海の向こうから僕の通訳をやってくれているが、その子が今、日本語学校の先生をしているらしい。先日通訳を依頼したときに今授業中と言って断られた。僕はてっきり自分が学生かと思っていたら、なんと先生らしい。担当はN5のクラスだそうだ。N5と言えば、挨拶程度だが、それでも先生と言う肩書の仕事を見つけたのが嬉しかった。
 今まで帰国した通訳達が、ベトナムの人材派遣の会社の通訳となって再来日し、ブラック企業の手先になっているのを見聞きしているから、まっとうな職業についたのが嬉しかった。日本に来ても、いつまでもベトナムの農村部の匂いを身にまとっていて、その純朴さに癒された人だ。
 古き良き時代を求める権利は僕にはないが、ありのままの姿がたまたまそうであった、そんな幸運を僕は20年近く続けてこれた。時代に感謝か、地域に感謝か、いやいやかの地の人々に感謝だ。

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