水槽

 外から見るとまるで工場のようだが、中は水槽がいくつもある。まるい水槽の中を鮭が泳いでいる。水槽は直径で言うと2メートルくらいはあるのだろうか。その中をすべての魚が同じ方向を向いて泳いでいる。
 9億円をかけてのベンチャー企業。いわば魚の生産ラインだ。タンクの中は鮭が生きていくうえで必要な海水もどきだ。自然の海水を限りなく真似たものだろうか。
 水産国日本を救う技術として紹介された番組みたいだが、僕にはそうは見えなかった。狭い水槽の中を泳ぐ鮭は、まるで動物園の中のトラやライオンのようで、不自然極まりない。
 こんな気持ちになるようになったのは、ごく最近のことだと思う。旺盛な食欲に見境もなく、生きとし生けるものを胃袋に詰め込んでいたが、最近はどうしても食べたいという欲求がなくなったから、つい食べられる側に立ってしまうことがある。そして物の哀れを感じてしまうのだ。
 分業が発達したから、僕らはと殺の場面を見ることなく食欲を満たせられる。自分で絞めて食するという過程がないから、本能のままに、経済のままに行動する。まるでロシアがウクライナの人たちを「さばいている」ようなものだ。

 

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