廃墟

 瀬戸内市民病院 牛窓分館 跡地利用と言うキーワードで探しても、インターネット上にヒットするものはなかった。それなのに今日ある人が僕に何か健康に関する店舗を出したらどうですかと提案してくれた。
 ご両親の代からいうと20年くらい漢方薬を飲んでくれているお家だが、職業柄そうした情報には詳しくて、「自然素材で健康に役立つもの」と具体的な内容も口にした。当然僕は即座に断った。商売は嫌。体力に自信がない。残された時間が少ない。やりたい理由は一つもないが、やらない理由はいくらでも見つけられそうだ。
 でも、出店希望者の一部を教えてくれたら、客としては行きたいと思った。というのはとても良い立地なのだ。岸壁がすぐ目の前にあり、釣り糸をを垂らす人が並ぶ。潮の香もするし、波の音も聞こえる。漁船が港を出ていく姿も見えるし、遠く小豆島や四国を望むことができる。
 僕がまだ若いころ、神戸から移住してきた大金持ちが、前身の牛窓町立病院で死にたいと言っていた。海の男だった人だが、病室を船に見立てていたのかもしれない。海好きの人にとっては、医者の技量以上の魅力だったのかもしれない。
 廃墟寸前だった建物を、秋にはリニューアルしてオープンするそうだ。牛窓に暮らしながら、町外の方から教えてもらった。その日その日を懸命に消化するだけで、気力や能力や体力の一部を余力として使うことがもうできなくなっているってことだ。廃墟はすでに僕の中にあり。

 

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