土俵

 気恥ずかしいからベトナム人女性を誘って買いに行った。朝から正午まで草刈りをしてくれたお礼もあるのだが、体裁のほうがはるかに理由としては比重が大きい。
 昨日娘が教えてくれたのだが、まるで廃墟のような市民病院の抜け殻を利用して、若い人たちが何か企てているようで、その第一弾のケーキ屋さんが開店したそうだ。
 こういう場合はほとんどの町でもそうであるように、移住者の力が大きい。牛窓のこの企画もほとんどが新たに入ってきた人たちで成り立っているみたいだ。さすがの僕もほとんどつながりがなく、知っておかねばと言う、何も期待されていない老婆心で、食べもしないケーキを買いに行ったのだ。ただし、彼女たちにお礼をするという大義名分があったので、割と恥ずかしくなく廃墟の中に入っていけた。
 ただし、廃墟の前には大勢の人が座り込んで、いやいや駐車場からすでに満車に驚いたのだが、皆が同じ器の弁当らしきものを食べていた。目の前が海だから、潮風を感じながらの食事はおいしそうだった。
 その理由はすぐにわかった。廃墟の中にはケーキ屋さんだけでなく、ドリンクバーと軽食コーナーもオープンしていて、どこでどうやって仕入れた情報でやってきたのかわからないが、垢ぬけた若者や家族連れが、特等席を占拠していた。
 一角に何やら疑似商店街みたいなコーナーがあり、外から見ると昭和を模しているように見えた。ただし見学料が200円なのでやめた。このあたりが僕の興味が鋭角打法の欠点だ。広角打法で色々なものにいそしめばいいのだけれど、ほとんどのものに興味を惹かれないのだから、寂しい人生だ。
 ケーキが高いので彼女たちはしり込みしていたが、ショーケースの前に立ったのだから、見繕って箱に入れてもらった。
 まだまだこれから同じような志?志向の店がオープンするみたいだが、硬い内容の仕事をしてきた僕は、まるで遊んでいるようなお店が新しい時代の形であってほしいと思った。追うものを変えなければ、やっていけない人たちが増えるだろうから。土俵に上がれない人たちは、土俵に上がらない人になって、新しい土俵を作ればいいのだから。時代は変えなければ。

 

Paul McCartney en Pub Philharmonics - VideoLyric - YouTube