牛窓の海

 「牛窓の海が好きなんです。何かあったらよく見に来ているみたいです」とお母さんが教えてくれた。別に僕が牛窓の海に貢献しているわけではないが、そんなことを聞くと嬉しくなる。誰にでもある郷土愛なのだろうか。 恐らく受診していたら立派な診断を受け、抗ウツ薬と安定剤と睡眠薬の団子3兄弟の餌食になっていただろうと思われる方が、こよなく牛窓の海を愛していることを知って、お役に立てて結構短期間でほぼ完治に手が届いてくれたことが一層嬉しい。牛窓の海など見たくもないと言われても同じ処方はつくって飲んでもらうとは思うが、どうせならよい言葉をもらった方によりよい効果をもたらしたいと思うのは人情だ。僕は感情的な人間だからその点は否定しない。処方を選択するところまでは差がないが、そこからは断然差を付ける。  最初、まじめ過ぎ病かと思った。その後、頑張りすぎ病かと思った。その後、心配しすぎ病かと思った。その後自分で決めつけすぎ病かと思った。その後幸せすぎ病かと思った。でも決して一度もうつ病だとは思わなかった。