必要なくなった医療用医薬品を返品しようと、毎日訪問してくる若いセールスに渡した。従来ならそれを受け取り、数日後に返品伝票を届けてくれる。数社と取引しているから、返品相手を間違ったりすることもあるが、それは返してくれる。ただそれだけのことだが、効率を求める会社にとっては無駄な行為なのだろう。
 と言うのはその日僕は初めての光景を見た。娘夫婦が食事でいなかったので僕が医科向けのセールスに対応したのだが、その若いセールスは僕が返品すべく並べた薬を一つ一つ手に取り、何やらスマホに打ち込んでいるのだ。僕は何をしているのだろうと思って尋ねると、「薬が確かにわが社から納めさせていただいたものか確かめているんです」と答えた。何年前に仕入れたものか分からないのに、彼は僕の前で、それも数分でやりのけた。これには驚いたが、実はもっと凄い(無知な僕にとって)こともできると教えてくれた。まさに会社の事務員がかつてはやっていたことが訪問した薬局の店頭で出来ているわけだ。
 時代の進歩が、こんな田舎の薬局と関連するような分野で着々と進んでいることに驚き
何度も感嘆の声を上げた。あまりの驚きように向こうの方が面食らったみたいだったから「僕は今まで携帯電話やスマホを持ったことがないから、電話のかけ方も知らんのじゃ」と説明すると彼は「そこまで行くと、逆にかっこいいですね」と言った。世の中ともう何十周も遅れて走っている僕だが、それで褒められたのは初めてだ。今まで顔以外で褒められたことはないのに。

 

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