葉書

 おそらく先生ではなく、奥様の字だと思うが「大和様はいつまでも、漢方相談頑張ってくださいね」と、葉書の最後に書いてくださっていた。
 その1行を読んあだと、一瞬のうちに涙が浮かんだ。それこそ1秒もかかっていないと思う。
 もう先生は店頭には立っておられないと思う。講演もすべて断っていると思う。35年くらい、毎月有志が集まって先生の漢方の講義を聞いた。会に入らせてもらったときには極端に若造だったが、結局は最後まで若手でいたような気がする。先輩たちがとても頑張られたのと、漢方薬を中心に薬局経営をしていこうとする若手が少ないせいだ。余程漢方が好きか、已むに已まれずか、単なる偶然か、入り口は違っても、なかなかその入口の門をくぐろうとする人はいない。調剤薬局が世の主体になってからはなおさらだ。
 僕は、家族のおかげで漢方薬に導かれた。漢方に引き合わせてくれた方がいて、先生にたどり着いた。山本巌と言う、大先生にかわいがられた僕の先生は、とても気さく、いやそんなかしこまった言葉は似合わなくて「滅茶苦茶」気さくな方で、難しい単語は全く使わずに漢方を教えてくださった。講義の時間中もいつも笑いが絶えなかった。
 その先生の性格が僕にはとても幸いして、あれだけ苦手だった学生時代の「生薬」コンプレックスが一気に吹き飛んで、いくらでも知識が頭に入り、田舎の患者さんたちの応援もあって、何とか人並みに漢方薬でお役に立てれるようになった。
 現代医学で落ちこぼれた人たちを漢方薬で救い、症状の改善に貢献できる経験を多く積めるようになって、医学部を落ちたコンプレックスも全くなくなった。先生との出会いは、漢方薬の知識を頂いただけでなく、心の負の遺産をも吹き飛ばしてくださった。
 薬剤師人生がとても楽しかったのは、全部先生のおかげだ。今回、頑張ってと声をかけてくださった嬉しさと寂しさは、こうして筆舌に尽くせぬ「おかげ」をもらった人間にしかわからないと思う。木漏れ日に心の暖を取る今日この頃だから。

 

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