バイパスだから７０㎞位で走っている。コロナが落ち着いているせいか、いつもの日曜日に比べたら車の数は倍くらいはあるような印象だ。家族の為に、遠い異国で頑張っている若者を傷つけるわけにはいかないからいつものように緊張して運転していた。
後部座席からほとんど日本語が分からない女性がやたらスマホの画面を見せる。一瞬目をやるが、当然何の画像かわからない。僕の「危ない！」という日本語が分からないらしく、何度も繰り返す。
そのうちほんの少しだけ日本語が分かる女性が助け舟を出してくれた。「オカアサン シンダ コロナ」と。すぐにある程度は理解できた。誰かがコロナで亡くなったのだ。ただ、この「オカアサン」がぴんと来なかった。誰かお母さんと呼ぶべき人が亡くなったのだろうなと思ったのだが、結局はやたらスマホを見せる女性のお母さんだった。５人で車に乗っている理由は、四国の栗林公園の紅葉を見に行くためだ。いわば観光。もし実際に母親が亡くなったのだったら、そういった選択肢はないだろう。そこで僕は「ター（本当）？」と確かめたが「ター」と返って来る。４人の紅葉見たさの期待が十分伝わってきていたから「ノイサオ、ノイサオ（嘘）」と確認したが、やはりお母さんが亡くなったらしい。慌てて僕は「リーベイ（帰る）、リーベイ」と帰ることを促したが、「モミジ ダイジョウブ」と帰る気配はなかった。
大筋を了解すると、一瞬のスマホ画面が理解できるようになった。母親の遺影。教会での葬儀のミサ。ご遺体を霊柩車に積み込むときの動画。遺骨を納めた骨壺。まさに前日の出来事らしい。
親が亡くなればさすがに帰国を許されるらしいが、今回はコロナのせいでそれもできないらしい。事実を概ね理解できたから「〇〇さん、大丈夫？」と尋ねると、日本語が少しできる女性が「〇〇サン キノウ １ニチ イッパイ ナイタ ダイジョウブ」と教えてくれた。
悲しみを少しでも和らげられるなら、これもありか！とそこからはエンジン全開。悲しむ姿より、喜ぶ姿のほうが何倍もうれしい。
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