後姿

 相談された内容で、どうして1時間半くらいの距離を運転してこれたのか分からなかった。ただ、職業を聞いて、プロなんだと納得した。
 僕より数歳年上で、すでに3つもの手術を経験している。腰に首に腹部の動脈瘤。どこをとってもつらいし不安な症状ばかりだ。重機のオペレーターと言うから、あの硬いシートに腰を掛け、縦方向の重力を受けながら仕事をしてきたのだろう。縦の圧力は骨格系には致命的で、そのために苦しんでいる人は多い。かくいう僕もその中の一人で、バレーボールでジャンプを20数年間しすぎたせいで、腰と首はかなり痛めている。ただ運よくまだ手術の段階ではないが。
 僕がその方の症状を聞いていて、内心ウルルと来たのは、純朴そうな人柄だった。土建業を長年やってきている方のような粗暴さはない。穏やかで丁寧な人だった。こうした人こそがこの国を支えてきたのだ、そして、こうした人こそが体を道具にして働いたせいで体を壊してしまっているんだと感慨深かった。日に焼け、しわだらけの顔を見ながらそう思った。
 こうした人を僕は美しいと思う。美的感覚ではなく、訴えてくる何物かがある。逆のような人間ばかりが目立つご時世だから余計際立つのだろうか。着古した作業着の後姿を見ながら、「まだやれるよ」と声をかけられているような気がした。