生物

 そこまで思いは至らなかった。ただ、僕は景色が茶色に染まるのが好きでないだけだった。
 隣の広い駐車場は、この町の資産家のものだ。管理は行き届いていて、時期時期に適切に手入れされる。この時期は梅雨前に刈り取られた草が、農薬を一面にかけられ成長半ばで強引に枯らされた姿だ。農薬をかけられ枯れたはずの草が、それでもなお成長しているように見えるのは全く僕の勘違いなのだろうか。茶色に変化したころの背丈と現在では明らかに違う。生き残った緑の草も見当たらないくらい今回は完全制覇されているはずなのに、日に日に枯れたまま背丈を伸ばしているようにしか見えない。
 「コオロギやバッタが隠れるところがないから逃げてきている」とは妻が今日、我が家の小さな屋内駐車場から入って来た時に言った言葉だ。屋内駐車場と言っても壁は一切ない。3階建ての建物を支えている柱が2本あるだけだ。だから日は当たらないし、若干の植木鉢に木や草や花が育っている。完全な砂漠ではない。そこに暑さを避けて?避難して来ていると言うのだ。
 妻の推測があたっているのかどうかは知らない。だけど何となく説得力がある。そうした小さな生き物の住まう空間を奪っているのだろうかと、その時に気が付き、哀れに思った。
 哀れになるくらい頼りなくて愛らしい小さな生き物を、僕たちが直接、間接的に手にかけていいはずがない。驚くほどの生物が地球から消えてなくなっているらしいが、地球には厄介な人間と言う動物がはびこってしまったみたいだ。