後部座席に乗っていた女性が突然大きな声を出した。そして助手席に乗っていた女性に急いでスマフォを渡した。車の正面ガラスにスマフォが向けられたから何かと思ったら、虹が見えるらしい。助手席の女性は日本語が堪能だから彼女の通訳でそのことが分かった。
 丁度農道の直線道路を走っていたから運転に気を配りながら、スマフォが向けられているほうを見ると虹が出ていた。ただし、見えるのは橋でいうと橋脚部分だけだった。それでも彼女たちの喜びようはすごかった。僕にはただ綺麗だけで喜んでいるようには見えなかったので、ベトナムでは虹を見ると何かいいことがあるのと尋ねてみた。すると案の定、幸運なことが起こるらしい。だからあのくらい喜んでいたのだ。その場でさすがに祈るようなことはしなかったが、流れ星と一緒で希少価値のものには、時として神が宿るのだろう。
 いつ覚えたのか知らないが「くっちゃあ ね、くっちゃあ、ね」と自嘲気味に答えるこの予期せぬ大型連休に、虹でも見なければ「やってられない」だろう。異国の地で行動を制限されよく耐えられるなあと同情を通り越して感心するばかりだが、このままでは恐らく日本人との間に虹をかけることなく、クールに去っていくのだろう。