一致

https://www.youtube.com/watch?v=M_k21KqrcWY

 息子が働いているクリニックの真正面に、同じ系列の特老がある。助手席に乗っていたベトナム人が、その大きな建物を見て「何ですか?」と尋ねた。特老、特別養護老人ホームと言う言葉はいかに通訳でも難しいだろうから、老人ホームと答えた。するとすぐに理解できたみたいで、お金がどのくらい必要かどうかも尋ねられた。
 3年もいるから日本のシステムもかなり理解できているのか、収入によって金額が異なることも理解できたが、日本の老人たちが喜んで入っているかどうかが知りたかったのだろう、「お父さん、入りたいですか?」と、恐らく一番聞きたかっただろう質問をしてきた。
 僕は「入りたくない」と即答した。最近いずれやってくる「その時」をどう過ごすか考えることが多くなった。働いている時以外はおおむねそうしたマイナーなテーマに関して頭が回転している。だからイメージはすでに出来上がっていて、その種の施設に入ることは、そもそも頭にない。
 僕は「お父さんは自分で自分の小さな施設を作る」と答えた。不気味かもしれないが介護設備が整った小屋もどきだ。すると彼女は「私も入りたくない。ご飯も シャワーも、寝るのも時間が来たらしなければならない」と言う理由だ。僕は「自由がないものね」と答えたが、異国の20歳代の女性と意見が一致した。僕は「自由」と言うキーワードにこだわっているから、最期まで自分で衣食住を管理したい。
 良く働き、良く倹約したから、最後には少し我儘を貫きたいと思っている。そしてあの究極の眠り、全身麻酔を受けた時の2秒も意識がもたない状態を経験したい。