非常識

 娘夫婦が昼食でいなくなった薬局に僕は一人でいた。調剤室で漢方薬を作っていると、誰かが薬局に入ってくるのがわかった。煎じ薬アレルギーにかつてなったから、煎じ薬を作るときはマスクは必需品だが、粉薬の時はその心配はない。その時は粉薬を作っていたのでマスクはしていなかった。
 人が入って来たからマスクをしようかなと一瞬迷ったのだけれど、なんとなく面倒でマスクなしで出て行った。入って来たのはお医者さんで、100数十人規模の特別養護老人ホームの回診をしている方だ。今日はその日ではないがきっと往診がえりいなのだろう。特老患者の処方箋の束を持って来てくれた。週に2回回診をし、その後僕の薬局で調剤をし施設に届けるのだが、とても気さくな先生で、先生自らが処方箋を持参してくださることも多い。
 なんとその先生もマスクをしていなかった。薬局の中で薬剤師と医師がマスクなしで話すことになった。僕はマスクは嫌いな方だから問題はないが、お医者さんは日常的にマスク慣れしている。どうしてマスクをせずに入って来たのか、そして入ってきたらマスクなしの薬剤師が出迎えてしまって困惑したのかどうか分からないが、僕はなんだかほっとした。
 休日出かけても僕は外でマスクをするような習慣がないから、しばしば店舗に入るときにマスクを忘れて車にとりに戻る。感染予防ではなく、マスクをしていない人間を敵視する不快感から身を守るためだ。
 人が接触することのない戸外で多くの人がマスクをしているが、僕は100%外す。息苦しいほうがよほど不健康だ。あれだけ混雑している勤通学の電車の中で感染しないのに、戸外で感染するはずがない。
 新たな押し付けの常識が僕には多くの場合非常識に見える。