手術

 職業柄、情報を沢山持っている方。それも正確をもっとも重要視する職業だから精度は高い。その上人柄を表しているのだろうが、その情報の質がいい。耳にしたくない、見たくないようなものではなく、教えてもらってありがたいような上質なものばかりだ。  その方が最近あるお医者さんに頚椎の手術をしてもらった。術前半年くらいは肩から腕にかけて激痛が走り、それこそ四六時中その痛みに耐えていた。いわばずっと歯医者さんで麻酔をかけずに歯を削ってもらっているようなものだ。正面に腰掛けて話をするときにはしかめっ面は見せないが、本当はいつも顔をゆがめていたかっただろう。  その方が久しぶりに今日訪ねてきた。当然開口一番、その後の様子を聞く。すると痛み痺れが9割くらい治ったらしい。1割くらいに苦痛が減ったらしい。1割苦痛が取れても嬉しいのに、9割も取れたらほとんど奇跡だ。頚椎の手術で有名な先生らしくて、首の前から切るらしい。確かに正面から少しだけずれたあたりに絆創膏が貼ってある。傷口が3cmくらいと言うからたいしたものだ。身体への負担が少なくてすみ、早い人は1泊2日で帰ることが出来るというから、これまた驚きだ。痛みと痺れがない生活は、体験した人でないとわからないだろうが夢の世界なのだ。その夢がわずか数日でかなえられた。僕は心から嬉しかった。僕のような仕事をしていると「次」があることはとても力強いのだ。漢方薬は残念ながら、何をやってもだめな人しか挑戦しないので、相当難しい人が頼ってきてくれる。本来なら、簡単なものを漢方薬で治して、どうにもならないものだけ大病院に行けばいいのに何故か逆だ。だから僕たちにとって「夢のような次」があるのは嬉しい。僕みたいなものが最後の「藁をもつかむ」存在になってしまうのかと不安なことが多いが、これで頚椎については滅茶苦茶強力な次があることがわかった。紹介したい人が1人すぐ浮かんだ。  何度もその方に、よかったよかったと言っていると、最後に教えてくれた。「実は、手術が終わって麻酔が覚めた時に何の症状もなかったので先生の前で泣きました」と。それを聞いて当然だと思う。恐らくほとんどの人が奇跡を喜び、医師への感謝の気持ちが溢れ出るだろう。嬉しさと感謝の涙だ。話を聞いているだけで僕も涙が出そうになった。当事者なら当然だ。  僕もある程度感謝をされる職業だが、泣きながらありがとうと言われることはない。一度でもそうした言葉が出てくるような人助けをしてみたい。 先生の前で泣いた。