「別に休みの日に遊びに行きたいわけでもないし、贅沢もしたいとも思わないんですけどね」としみじみ言われるその方は、ヤマト薬局がとても信頼してあることのお世話になっている先生なのだが、3回目の手術を約束したばかりだ。日本的にも有名な先生に手術してもらうからその点の心配はしていないのだが、働き者の先生にとって、そのために仕事から離れなければならない数日が苦痛なのだ。僕にもそれはよくわかる。仕事が好きな人間にとって、遊びに慣れていない人間にとって、病院に数日間拘束されるのはかなりのストレスだ。ストレスが多い職業の先生も、本職以外のストレスには耐えられないのだろう。
 薬剤師とは少しばかり異なるが、困りごとの相談を受けることも多い職業で、人の役に立つと言う当たり前のことを何十年も繰り返していたら、それは大きな喜びとなり、そのことなくして自己を肯定することはできない。人が目指すべき倫理観は、先生にとっても僕にとっても日常のごく当たり前の光景だから、特別なものでない。平凡な日々の営みに満足は宿る。
 健康を保証されたような人もいるが、多くの方は不調を抱えて生きていく。ある時から老いも追い討ちをかける。逃げ出したいが逃げ切れるものではない。本当かどうか知らないが犬には今しかないそうだ。今やりたいことが全てらしい。刹那に生きる術を知っていたら、こんなに不安感にさいなまれたりしないだろう。ただ、僕たちは残念ながら犬ではない。猿のちょっと進化した生き物だ。