精神的苦痛

 精神的苦痛(うつ、不安の症状)が重くなるほど、大腸がんや前立腺がんのリスクが高まり、精神的苦痛は発がんの予測因子となる可能性があることが、英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのG David Batty氏らの検討で示された。精神的苦痛とがんとの関連については、(1)精神的苦痛に繰り返し曝されるとナチュラルキラー細胞の機能が喪失して腫瘍細胞の増殖を招く、(2)うつ症状は視床下部-下垂体-副腎系の異常をもたらし、とくにホルモン関連がんの防御過程に不良な影響を及ぼす、(3)苦痛の症状は、喫煙、運動不足、食事の乱れ、肥満などの生活様式関連のリスク因子への好ましくない影響を介して、間接的に発がんの可能性を高めるなどの機序が提唱されている。  この知見は英国の16研究の参加者16万人以上を解析して分かったことらしい。学者が調べて発表すればなるほどなと得心してしまうが、こんなことはなんとなく誰もが感じていることではないか。若くして癌で亡くなる人を見ていると、あまりにも頑張ったか、あまりにも不幸だったか、あまりにも発がん物質と接触しすぎたかなどと素人ながらに想像はつく。あまりにも普通だった人にはこの病気は来にくいのではないか。  今日も「なんでもなかった」と喜んで入って来た女性がいる。どう見ても怪しいから、懸命に説得して病院に行ってもらった。一番なりたくない病気の条件をなんだかクリアしてしまいそうなので、僕の手には負えない。勇気がある女性で、僕の漢方薬で治すというが、敵が見えないのに作りようが無い。幼い時から不運で、まともに育つのも難しかったが、何とか全うな道を歩み続けてこれた。上記の条件を全て満たしている人だから、若くてもひょっとしたらと心配していた。懸案が一度に吹っ飛んで、いい顔をしていた。そのリスクを下げるために日常をもっと律すればよいと思うのだが、健康なときにはなかなか難しい。追い詰められて、惑い苦しみ、そこでやっと改心しそうだが、喉もと過ぎれば皆同じで、努力してまで健康であり続けようとはしない。世の常、人の常だが、とても人間らしくて、そこまで否定しようとは思わない。  うつや不安の反対は、僕は笑いだと思っている。笑いで癌をやっつけるような真面目な取り組みがもう何年も前に行われ報道されていた。効果は実証済みだが、その笑いが身近に無いと始まらない。僕の薬局には、それだけは溢れている。そのためだろうかつい最近「先生は誰に似たんですか?」と尋ねられた。誰に似たのか分からないが、これで失ったものも無いからよしとしている。