五寸釘

 都会だけの話しかと思っていたら、こんな田舎にもあるんだ。牛窓の人のよさを自慢しているが、中にはこうした人もいるんだと驚いた。もっとも何処に行っても人それぞれで、悪意がもぐりこむのは避けられない。偶然1週間のうちに二人その種の原因で漢方薬を作ってと言ってきたので、印象に残った。  二人の相談者に共通するものがあるとすれば、昔からの町並みに家があり、正に家同士が接触しているかのごとく並んでいると言う点だろう。昔からの町並みは道幅も狭く、隣の家の食事が匂いで分かる。恐らく出かけたり帰ったりも分かるに違いない。興味を持てば人間関係さえ分かってしまう。ただこのことは決して欠点でも不自由でもない。役に立ったり心地よいことのほうが圧倒的に多い。ただ、これが運悪く隣人と揉め事を起こしたりしたら大変だ。逃げ場所や緩衝地帯がなくなるから、波が津波のごとく増幅され、垣根を簡単に越えてしまう。  どこにでもあることはどこにでもある原因によって引き起こされたみたいで、片やペットが引き金、片や妬みが引き金だ。実際の行動も然りで、片や騒音おばさん、片や侵入おばさんみたいだ。ただ被害者の体調不良は似ていて、二人とも食べられなくなって痩せていた。  こうした人を治すのは得意で、一人は翌日には数ヶ月の苦痛がほぼ解消し、他の一人も1週間でほぼ解決した。漢方薬の力もあるが、まじめくさらない僕の治療方法が効を奏したかもしれない。ただ、藁人形を作って五寸釘を打ち込めと勧めたら、それをやられていると言われたのにはまいった。