渋滞

 面白い偶然だ。2週間前に僕はかの国の女性達を連れて鳥取県の智頭町に雪を見にいった。帰国にあたって、雪景色を見たいと言ったから思い出作りに協力した。恐らくもう2度と日本に来ることはないだろう人達だから、南国では見られない景色を記憶にとどめておいてほしかった。案の定、まるで子供のように楽しんでくれたが、その智頭町を僕が選んだことに貢献してくれた人が今日薬局に訪ねてきた。  彼は、ある製薬会社の社員なのだが、丁度大雪の時に鳥取市に出張だったらしい。国道に沢山の車が渋滞し、半日近く閉じ込められた日だ。確か70台と報道されていたような記憶があるが、正にその中の1台が彼だったのだ。岡山県の真庭辺りから美作を通って智頭町に入ったらしいが、鳥取道でついに通行止めにあい、国道に下りた時点で動けなくなったらしい。彼も北国の人間ではないからかなり怖かっただろうと思うが「車って、結構大丈夫なものですね」と何回か繰り返した。その意味は、ずっとエンジンをかけっぱなしだったらしいが、11時間止まらずに動いてくれたことへの感謝の意味だ。電気を消して、エアコンをつけ、時々降りては雪かきをして、一酸化炭素中毒を防いでいたらしい。勿論危険だから眠らなかったそうだ。何か食べたのと聞くと「付近のおじいさんがおにぎりを1つ配ってくれた」と言っていた。そして後ろに止まっていたトラックの運転手がガソリンがなくなるから車に乗せてくれと言ってきたらしい。生憎荷物を一杯積んでいたので乗せてあげれなかったが、その後ろのトラックに頼んで乗せてもらったらしい。雪の中、連帯感が生まれて助け合っていたことが分かる。「いい経験をしたね」と言ったのは、そのあたりのことを僕は指していた。  僕が智頭町に行こうと決めたのは、実はその大雪で渋滞している光景をニュースで見たからだ。その1週間後くらいに予定していたのだが、あれだけ降ればさすがに雪は解けないだろうと思った。案の定、まだ雪は十分残っていて、雪景色や雪の感触を楽しんでもらえたが、あの渋滞の中に知り合いがいたとは驚いた。偶然とはいえ、面白いものだ。人の災難を情報源として申し訳ないが、笑いながらネタばらしをして、それぞれの智頭町で盛り上がった。