観察

 以前から気になっていた事を今日検証するチャンスに恵まれたので実行してみた。  僕は、潔癖なところは少なく大雑把なところのほうが圧倒的に多い。神経質なのかと自分で思うことも多いが、意外とそうでない部分も多い。単純化すれば、命にかかわるところだけは繊細だが、そうでない分野は大雑把というところだろうか。だからごく普通の病気などは大雑把の部類に入れている。  以前から気になっていたことと言えば、1日何人の客が来るかわからないような大きなスーパーで、多くは入り口付近にあるが、パン屋さんの商品が何の覆いもなく露出したまま陳列されていることだ。昔のパンは工場で作られて店頭に陳列されるだけだから、全て袋に入れられていた。ところが今のパン屋さんは現場で焼いて、焼き立てを陳列するから、何の覆いもない。1日1万人でもその前を通り過ぎるかもしれないのに全く無防備に陳列されている。僕は自分の薬局でマスクをつけないのは、患者さんからインフルエンザなどを移されないように用心しているところを見せたくないからだ。折角僕の薬局を選んで処方箋を持ってきてくれる人の「病気はもらいません」と意思表示することになるのが嫌なのだ。移るか移らないかは僕の体力であって、患者さんの責任ではない。ましてウイルスなど人ごみに出れば無数に飛び交っている。目の前の人物だけが感染源ではない。1日万の数の人が集まる空間など、ウイルスや細菌の培地みたいなものだ。その中に何の躊躇いもなく鎮座ましましているパンが信じられない。清潔志向を企業に植え付けられた日本人の誰もがその光景を受け入れているかのようだ。日本人がしばしば敢えて自慢することとは、かけ離れた印象を持っている。  教会でのイベントが意外と早く終わったので次の用事まで2時間も時間が余った。そこでいつも行くスーパーをくまなく探検したのだが、もう1つ同じような現場を見つけた。それはてんぷら?揚げ物のコーナーだ。我が家では滅多に口に入らないような揚げ物が一杯陳列されていたが、これもまた無防備だ。油物だから如何にも空気中のゴミを吸い取りそうだが、これもまたお構いなしで手にとり買い物籠に入れる人が多い。どうしてこの2種類だけ寛容なのだろうと不思議だった。  そこで薬剤師根性が芽生えて、一体マスクをしている人達はそうしたものを実際に買うことができるのだろうか観察してみることにした。冬だからマスク姿の人は多い。観察は簡単だ。じっと傍で見ていたら営業妨害になってしまうので、如何にも用事があるかのように振舞いながらパンと揚げ物のコーナーを何度か往復した。結果は誰も手にしなかったと言うより、素通りだった。実際に話を聞いたのではないから、それとサンプル数が少ないので確かではないだろうが、吸い込むウイルスにだって気をつけている人が、口からとるウイルスに関心がないと考えるほうが不自然だ。  暇に任せての実験だったが、なんとなくその無駄な時間を有意義に使えたような気がした。転んでもただでは起きぬ潔癖さを持っている事もついでに証明できた。