トッピング

 時に根っから明るい人っているもんだ。勿論生活者だからそれなりのストレスは抱えていたりするのだろうが、それが表に出ないのだから大したものだ。僕なんか感情がもろ出る方だから、そうした人の明るさが才能のように思えてしまう。 美味しそうなパンを5つ持ってきてくれた女性はそうしたタイプの典型だろう。いつも笑顔が絶えず、それが如何にも自然なのだ。作り事が彼女の言葉や態度の中にはない。それが相手にはとても気持ちがいいのだ。結構日常的に演技をする人がいて、それが見え見えだから余計不快きわまりないのだが、その対極にいる人となら、話すだけで気が休まる。  持ってきてくれたパンは、実は彼女の作品なのだ。パン屋さんの仕事をしていて、自分で一から作ってくれた物だ。朝早くからの仕事で、男性に負けない力仕事をして・・・一般の人間からは見えない裏の仕事風景も教えてくれて興味深かった。幼い子供たちのなりたい職業の女の子部門で万年上位の仕事だが、実はなかなか大変というのも興味深かった。  話が弾んで、折角だから独立して自分の店を持ったらと提案した。まんざらでもないようだがいくつものハードルはそれなりにあるのだろう。店の構造、必要な厨房器具なども例によって笑顔をたやさずに教えてくれたが、僕はその手のことはさっぱり分からないから、僕の才能を生かして店の名前を考えていくつか提案した。真面目に煎じ薬を飲んでもらっているから「べーカリー煎じ」ちょっとした素材を生地に練り込んで作れば色々なものが作れると教えてくれたから「ベーカリーお通じ」女性の話す内容によっていくらでも店の名前が浮かんでくる。あまりに楽しかったので笑いの壺に落ちそうで、姿勢を維持するので大変だった。まさか薬局の中で寝ころんで笑い転げるわけにもいかないので。  僕らの世代から言えば今巷に溢れている美味しい手作りのパン屋さんなど夢のような存在だ。超贅沢だったものが今や100円ちょっとで手に入る。女性の話を聞いていたら安すぎるのではないかと思った。ましてとびきりの自然派笑顔がトッピングされているのだから。